(住込み浪人[その95]の続き)
「ん?.....君は、エヴァなんとかという青年を知っているのか?」
EBSテレビの廊下で、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、『岩原プロモーション』の看板俳優にして事実上の代表であるのが、『渡蟹徹夜』に声をかけられた。
「あ……はい、まあ、そのお……」
「ウチの事務所で探しているんだ、エヴァなんとかという青年を」
「エヴァンジェリストですか?」
「そうです。エヴァンジェリスト青年です」
『渡蟹徹夜』のマネージャーらしき男が、口を挟んだ。
「そのエヴァンジェリスト君に、是非、『岩原プロ』に入ってもらいたいんだ」
スターに直視され、そう云われた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、緊張しながらも訊いた。
「エヴァの奴をご存じなんですか?」
「いや、知らない。まだ会ったことはない。だが、『まさ子夫人』がね」
「『まさ子夫人』?」
芸能界に疎い『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、『岩原プロモーション』を作った往年の大スター『岩原裕三郎』のことは知っていたが、その夫人にして元女優『桂三枝(かつら・みえ)』のことは知らなかったのだ。今は、『岩原プロモーション』の会長『岩原まさ子』である。
「ああ、会長の『まさ子夫人』が、そのエヴァンジェリスト君の噂をどこかで耳にしたんだ。彼の美貌の噂だ。知っての通り、『岩原プロ』は苦しい。『勃(たつ)セマシ』に続く役者が出てこないんだ」
『岩原プロ』で、『渡蟹徹夜』に次ぐ人気俳優の『勃(たつ)セマシ』のことも知ってはいた。主演し、高視聴率を稼いだドラマ『あぶないほどデッカイ』は見たことはなかったが。
「だから、次代のスターとして、エヴァンジェリスト君をスカウトしたい、というのが、『まさ子夫人』の意向なんだ。君は、エヴァンジェリスト君の友だちか?」
「まあ….」
「じゃあ、彼の連絡先を…..」
と、『渡蟹徹夜』が身を乗り出してきた時であった。
「ああ……..」
(続く)
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