2019年5月24日金曜日

住込み浪人[その96]







「ん?.....君は、エヴァなんとかという青年を知っているのか?」

EBSテレビの廊下で、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、『岩原プロモーション』の看板俳優にして事実上の代表であるのが、『渡蟹徹夜』に声をかけられた。

「あ……はい、まあ、そのお……」
「ウチの事務所で探しているんだ、エヴァなんとかという青年を」
「エヴァンジェリストですか?」
「そうです。エヴァンジェリスト青年です」

『渡蟹徹夜』のマネージャーらしき男が、口を挟んだ。

「そのエヴァンジェリスト君に、是非、『岩原プロ』に入ってもらいたいんだ」

スターに直視され、そう云われた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、緊張しながらも訊いた。

「エヴァの奴をご存じなんですか?」
「いや、知らない。まだ会ったことはない。だが、『まさ子夫人』がね」
「『まさ子夫人』?」

芸能界に疎い『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、『岩原プロモーション』を作った往年の大スター『岩原裕三郎』のことは知っていたが、その夫人にして元女優『桂三枝(かつら・みえ)』のことは知らなかったのだ。今は、『岩原プロモーション』の会長『岩原まさ子』である。

「ああ、会長の『まさ子夫人』が、そのエヴァンジェリスト君の噂をどこかで耳にしたんだ。彼の美貌の噂だ。知っての通り、『岩原プロ』は苦しい。『勃(たつ)セマシ』に続く役者が出てこないんだ」


『岩原プロ』で、『渡蟹徹夜』に次ぐ人気俳優の『勃(たつ)セマシ』のことも知ってはいた。主演し、高視聴率を稼いだドラマ『あぶないほどデッカイ』は見たことはなかったが。

「だから、次代のスターとして、エヴァンジェリスト君をスカウトしたい、というのが、『まさ子夫人』の意向なんだ。君は、エヴァンジェリスト君の友だちか?」
「まあ….」
「じゃあ、彼の連絡先を…..」

と、『渡蟹徹夜』が身を乗り出してきた時であった。

「ああ……..」


(続く)


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