(住込み浪人[その84]の続き)
「(ん、もーっ!このエレベーター、遅いんだから!)」
青坂のEBSテレビ本社ビルのエレベーターの中で、クイズ番組『テイトー王』の女性アシスタント・ディレクターは、エレベーターのスピードに、しびれを切らしていた。決して、エレベーターが遅かったのではない。アシスタント・ディレクター松坂慶江には、遅く感じられただけであったのだ。
「(このままだと、倒れちゃいそう….ホント、臭い!でも……ああ、この臭いったら!ああ)」
と、同じエレベーターに乗った『住込み浪人』ビエール・トンミー青年には背を向けるようにしながら、両手を股間近くに持っていき、モジモジとした。
「(なんだ、この人。オシッコでも漏らすんじゃないだろうな)」
アシスタント・ディレクターの背中、というか、お尻のあたりを見ながら、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、心配になった。エレベーターには、二人だけであった。
「(エレベーターの中でされたもんには堪らないぞ)」
「(堪らないのは、こっちの方だわ。ああ、もうダメええ….)」
その時、エレベーターのドアが開いた。目的階に着いたのだ。
「あああああ……」
松坂慶江は、もう堪らず、声を上げながら、エレベーターの外に出た。
(続く)
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