2019年5月13日月曜日

住込み浪人[その85]







「(ん、もーっ!このエレベーター、遅いんだから!)」

青坂のEBSテレビ本社ビルのエレベーターの中で、クイズ番組『テイトー王』の女性アシスタント・ディレクターは、エレベーターのスピードに、しびれを切らしていた。決して、エレベーターが遅かったのではない。アシスタント・ディレクター松坂慶江には、遅く感じられただけであったのだ。

「(このままだと、倒れちゃいそう….ホント、臭い!でも……ああ、この臭いったら!ああ)」

と、同じエレベーターに乗った『住込み浪人』ビエール・トンミー青年には背を向けるようにしながら、両手を股間近くに持っていき、モジモジとした。

「(なんだ、この人。オシッコでも漏らすんじゃないだろうな)」

アシスタント・ディレクターの背中、というか、お尻のあたりを見ながら、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、心配になった。エレベーターには、二人だけであった。


「(エレベーターの中でされたもんには堪らないぞ)」
「(堪らないのは、こっちの方だわ。ああ、もうダメええ….)」

その時、エレベーターのドアが開いた。目的階に着いたのだ。

「あああああ……」

松坂慶江は、もう堪らず、声を上げながら、エレベーターの外に出た。


(続く)


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