2019年5月29日水曜日

住込み浪人[その101]







「(知っている。私だ……..)」

EBSテレビのスタジオCで、クイズ番組『テイトー王』の収録が2度目の中断をなった理由を、アシスタント・ディレクターの松坂慶江は知っていた。

「(でも、それは、あの男のせい!)」

松坂慶江は、恨めしげにスタジオ隅に佇むパジャマ姿の男を見た。『住込み浪人』ビエール・トンミー青年である。

「(あの男の発する臭いのせい!ホント、臭くてたまらない。んん、もうどうにもたまらないわ!んぐっ!んぐっ!んぐっ!)」

と、ジャケットのポケットからマスクを取り出し、急いで口を覆った。

「(ふうう…..)」

マスク越しに深呼吸をした。



「じゃ、再開します。ヒロニさん、アメちゃん、お願いします!」

というチーフ・ディレクターの掛け声で収録は再開することとなった。

『んぐっ!』って、何のことだか分からないけど、まあいいや」

と、大人な対応を見せたヒロニであったが、頬を膨らませている出演者がいた。

「(もう!調子が乱れちゃう!何なのよ、『んぐっ!』って。そんなの勉強した中にはなかったわ)」


(続く)


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