(住込み浪人[その93]の続き)
「収録開始しまーす!さあ、皆さん、スタジオにお願いしまーす!」
EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』出演者控室に入ってきたアシスタント・ディレクター松坂慶江が、号令をかけた。が……..
「臭ーっ!」
松坂慶江は、顔の前を手団扇であおいだ。
「さっきより臭くなってる!.....ああ」
松坂慶江は、中年女性マネージャーと対峙した『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に、彼の股間に、眼を遣った。
「ん、まあ!」
「(いや、違う!違うんだ!......ボクは、おばさんには…..)」
「ふん!『コカンは口ほどにモノを云い』ってこのことね」
「(そんな諺、知らない)」
「だったら、覚えておいた方がいいかもね。今日の問題に出るかもよ」
「(んな、馬鹿な)」
「んもー、どうでもいいから、早くここを出て!もう堪らないわ!」
と促された『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、他の出演者たちを追うように控室を出た。収録があるスタジオがどこか分らないので、ついていくしかない。
「おはようございまーす!」
廊下の前を行く出演者たちが、誰かに挨拶した。
「(エヴァの云う通りだ。芸能界では、朝でなくても、『おはようございます』と挨拶するんだ)」
と芸能界に詳しい友人から聞いたことを思い出しながら、項垂れていた顔を上げた。
「は!」
芸能界に疎い『住込み浪人』ビエール・トンミー青年ではあったが、今、すれ違おうとしている男には見覚えがあった……
「(ズ、ズ,ズワイ……?」
(続く)
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