(住込み浪人[その88]の続き)
「ここよ、入って」
EBSテレビのクイズ番組『テイトー王』のアシスタント・ディレクター松坂慶江が、後ろから付いて来ているはずの『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に促した。そこは、『テイトー王出演者控室B』と書かれた札がドアに貼られた部屋であった。
「あ、はい……」
憧れの『太もも』、いや、憧れのアイドル歌手『アマゾネス・ジャン』と廊下ですれ違い、しばらく歩行困難となっていた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、まだ『硬直』の残る股間を両手で抑えながら、控室に入って行った。
「うーーん!なんだ!」
大柄な男が、叫んだ。
「なんか、臭いなあ!」
山上シンジである。刑事ドラマ『太陽をくわえろ!』で売り出し、スポーツ根性ドラマ『ゲール・デ’コール』の教師役で人気を博した俳優である。
「ご紹介します。こちら、『住込み浪人』ビエール・トンミーさんです」
アシスタント・ディレクター松坂慶江が、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年を見ないようにして、控室にいる人たちに紹介した。
「ああ、君か、今回の『助っ人』は。ヨロシクね」
『テイトー王』で、『五目並べの天才』と呼ばれる俳優の鈴木イチロー太が、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に声を掛けた。
「あ、宜しくお願いします」
と返事はしたものの、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年には、鈴木イチロー太も山上シンジもそれが誰であるのか、、分らなかった。俳優なのか、タレントなのか、或いは、芸能人のマネージャーなのか、テレビ局関係者なのか、分らなかった。芸能関係には、『アマゾネス・ジャン』以外は、ほぼ全く興味がないからであった。
「あーら、皆さん」
控室の中、入口近くに立っていた『住込み浪人』ビエール・トンミー青年に、背後から、いい匂いが流れて来た。
「(んぐっ!)」
(続く)
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