『少年』は、その年(1968年)、毎週楽しみにしていたテレビ番組『泣いてたまるか』が終了し、『渥美清』の回ではない回に主役となる『青島幸男』という、これもなんだか味のある役者を見れなくなるのは残念であったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その99]の続き)
「(そうだ、『パルファン』子さんは…..)」
晴れやかな顔という言葉は知っていたが、実際には見たことはなかった。しかし今、エヴァンジェリスト少年の顔は、まだ見ぬその顔となっていた。
「(『考えます』と云ってくれたんだ!)」
拒絶ではなかったのだ。
「(名乗りもしなかったのに、『考えます』と云ってくれたんだ!)」
つい今しがたまだ名乗らなかったことで後悔の波に飲まれていたのに、名乗らなかったことが、今、少年の顔を晴れやかにしていた。
「(そうだ!『パルファン』子さんは、ボクのことを知っていたんだ!)」
『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)校内でのことを思い出した。
「(そうだ!何度も、眼が合ったんだ!)」
校内では、休憩時間や音楽室、理科室への移動の時、放課後と、機会があればいつも『パルファン』子さんの姿を探し、時に、思い通り、その姿を見かけることがあった。『パルファン』子さんが、自分の方を見た、と思ったことも幾度かあった。
「(きっと、『パルファン』子さんも『素敵な先輩!』なんて思ってたんだ!)」
それは多分、妄想であったが、絶対に少年の勝手な妄想とは言い切れなかった。
「….考えます」
確かに、少女はそう云った。下校途中に突然呼び止めてきた名乗りもしない少年に、
「ボクと付き合ってくれないかなあ?!」
と云われたら、叫び出して逃げ出してもよかったであろう。しかし、実際には、逃げ出すこともなく、凝視め返し、
「….考えます」
と云ったのだ。少女も、少年のことを憎からず思っていたと考えてもおかしくはない。
(続く)
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