2019年11月29日金曜日

ハブテン少年[その106]




『少年』は、その年(1968年)、猛烈な人気となっていたグループ・サウンズの『ザ・タイガース』が発表した『君だけに愛を』という曲のどこがいいのか分らなかったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ(そもそもハブテルことでもなかった)。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


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「(お母ちゃんに云わんといけん)」

エヴァンジェリスト少年は、心中の言葉であったが、思わず広島弁になっていた。エヴァンジェリスト家のことは、何事も母親が決めるのであった。

「(でも…..)」

躊躇した。『オーカクマク』先生に生徒会長選挙に出るように云われたことを母親に告げた時のことを想像した。

「(お母ちゃんに云うと、きっと、『あんたあ、やりんさい!』と云うだろう」

ハハ・エヴァンジェリストは、家庭のことだけでなく、町内会のことでも、PTAのことでも仕切る人間であった。今時(21世紀)であったら、市議会議員くらいにはなっていただろう。ひょっとすると、市議会議員から始まって、県議会議員、国会議員になっていたかもしれない。



「(絶対、『あんたあ、やりんさい!』と云う)」

母親がとるであろう反応に確信があった。

「(ダメだ、ダメだ!)」

教室の隅で独り、頭を振った。

「(ボクが決める)」

虚空を凝視目る少年の眼は座っていた。

「(自分のことは自分で決めるんだ!)」

『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)2年の少年は、もう母親の云うことにただ従うだけの少年ではなくなってきていたのだ。だって…..

「ボクと付き合ってくれないか?!」

と、下校途中の1学年下の女子生徒『パルファン』子さんを追いかけ、告白したのだ。自分の意志で、いや正しくは、自分でも止められぬ自分の中の何かに突き動かされて、そんな言動をとったのだ。


(続く)



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