『少年』は、その年(1968年)、『パンパカパーン、今週のハイライト』で有名であった漫才師の横山ノックが参議院議員になったのには驚いたが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ(そもそもハブテルことでもなかった)。
だって、ハブテルと、
「あんたあ、ハブテンさんな」
と母親に叱られるのだ。
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(ハブテン少年[その103]の続き)
「(素敵よ、アナタ)」
きっと『妻』はそう思っているだろうと夢想しながら、エヴァンジェリスト少年は、ステージの上で、アルト・サックスを吹く。1968年の『広島市青少年センター』である。『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)の文化祭、ブラスバンド部(吹奏楽部)の演奏だ。
「(アタシたちの『新しい世界』なのね。ふふ)」
その年の演奏曲は、ドボルザークの『新世界』であった。少年が妄想する2人の『新世界』は何故か、テレビ・ドラマ『名犬ラッシー』に出てくる米国の豊かな生活のある家であったが、ドボルザークの『新世界』が米国を意味していたことからすると、あながち妄想とは言い切れない。
「ブー、ブブー…..」
『妻』との豊かな生活を夢想しながら、エヴァンジェリスト少年は、相変らず、自分のアルト・サックスのパートがどこであるか明確には分らないまま、
「(ええい!まあ、いいか、この辺で…)」
と、アルト・サックスを吹いた。
「ブー、ブブー…..」
そして、なんとか『新世界』の演奏はエンディングを迎えた。
「バチバチバチバチバチバチ!」
万雷の拍手であった。ブラスバンドの演奏が良かったのからであるのか、お愛想に過ぎないのかは、分らない。しかし、女子生徒の多くは今年も、ある一点を、いや、ステージ上のある男子生徒を凝視めながら、必死で手を叩いていた。
「やっぱりアラン・ドランじゃねえ」
演奏が終り、ブラスバンドの部員全員が立ち上がる。アルト・サックスを首から下げた『アラン・ドロン』も立ち上がった。
「(どこだろう?)」
客席に『妻』を探すが、客席は暗く、やはり見つからない。指揮をされたムジカ先生と一緒に部員全員、礼をする。
「バチバチバチバチバチバチ!」
『妻』も『夫』に懸命の拍手を送っていたことを、つまり『妻』の想いを、『夫』である少年は、その時はまだ知らなかった。
「バチバチバチバチバチバチ!」
そして、鳴り止まぬ拍手の中に、前の『妻』である『クッキー』子さんのものも混じっていたかもしれなかったが、新しい『妻』に夢中な『夫』の頭にも心にも『クッキー』子の『ク』の字も浮かぶことはなかった。
(続く)
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