2019年11月22日金曜日

ハブテン少年[その99]




『少年』は、その年(1968年)、毎週楽しみにしていたテレビ番組『泣いてたまるか』が終了し、もう切ない気分になれなくなるのは残念であったが、そんなことではハブテン少年ではあったのだ。

だって、ハブテルと、

「あんたあ、ハブテンさんな」

と母親に叱られるのだ。


************************





「(ああー!名前ー!)」

エヴァンジェリスト少年は、そこに蚊がいたら、木に空いた空洞と勘違いして入ってしまいかねないように、呆然と口を開けていた。

「(自分の名前を云わなかったあ!ああ!)」

彼の自宅前を通って帰宅する『ミドリチュー』(広島市立翠町中学)で1年下の女子生徒『パルファン』子さんを追い、廃線となった宇品線を超え、旭町の狭隘な道で彼女に追いつき、

「ボクと付き合ってくれないかなあ?!」

と、思い切って云ったものの、自分の名前を『パルファン』子さんに告げなかったのだ。

「(ああ…..)」

恥ずかしかった。大事なところで、またケアレスミスをしてしまったのだ。



「(名乗りもせずに告白するなんて、ああ、間抜けな男と思われただろう)」

……しかし、眼前に浮かぶ『パルファン』子さんは、じっとエヴァンジェリスト少年を凝視めていた。そして、おもむろに口を開いた。

「….考えます」

そうだ!それは、幻でも妄想でもなかった。確かに、『パルファン』子さんは、云ったのだ。

「ボクと付き合ってくれないかなあ?!」

という名乗りもしない上級生と見える少年の問いに対して、

「….考えます」

と答えたのだ。

「んぐっ!」

再び、股間に手を持っていった。


(続く)



0 件のコメント:

コメントを投稿