(うつり病に導かれ[その60]の続き)
「ご、ご、ごめんなさい」
処方薬を求めてきた『タノ9薬局』のカウンターで、ビエール・トンミー氏は、泣きそうになっている『スミコ』と呼ばれた八重歯の星由里子に酷似した女性に詫びた。『スミコ』がMacの『Boot Camp』とエクササイズの『Boot Camp』とを勘違いしていることを指摘しただけのことではあったのだが。
「おい!『スミ』ちゃんと泣かせるなんて承知しねえぞ!」
カウンターの隣にいる田中邦衛に酷似した青大将が、口を大きく歪めながら、ビエール・トンミー氏の腕を掴んできた。
「そうだよ、『スミコ』さんを泣かせたりしたら、アタシが黙ってないわよ、ユーイチ!」
『スミコ』の背後から、飯田蝶子に酷似したお婆ちゃん薬剤師『りき』までもが、唾を飛ばしてきた。
「いいのよ、青大将、『りき』お婆ちゃん。私が、パソコンのこと分かんないからいけないのよ」
と、『スミコ』は項垂れた。
「いえ、『スミコ』さんがいけないんんじゃないんです。パソコンって、まだまだ誰でもが分かるようなものじゃないんです」
「あら、そうですの」
『スミコ』が、顔を上げた。
「ええ、そうです、そうなんです。要するに、私が使っているのは、Windowsなんです!」
ビエール・トンミー氏は、とても風邪をひいた病人には見えない程に元気に高らかに宣言した。
(続く)