2020年4月1日水曜日

うつり病に導かれ[その62]






「あら、まあ!」

『タノ9薬局』のカウンターで、『スミコ』と呼ばれた八重歯の星由里子に酷似した女性は、カウンターの向こう側にいるビエール・トンミー氏に、ぐっと顔を寄せてきた。ビエール・トンミー氏から、自分が使っているのは、Windowsだと聞いたのだ。

「(んぐっ!)」

しばらくなりを潜めていた『股間』がまた蠢き始めた為、ビエール・トンミー氏は、慌てて両手で抑えに入った。

「本当ですの?」

『スミコ』は、更に、ビエール・トンミー氏に顔を寄せてきた。

「んぐ….いえ、私は、生まれてこのかた、嘘はついたことがありません」

と、云いながら、ビエール・トンミー氏は、赤面した。嘘を云ってしまったことを自覚したからだ。

「では、福岡行のJANA便でWindowsをお使いになったこともおあり?」

『スミコ』は、更に、ビエール・トンミー氏に顔を寄せ、『スミコ』の鼻がビエール・トンミー氏の鼻に付かんばかりとなった。


「(んぐっ!)」

ビエール・トンミー氏は、『股間』だけではなく、自らの心の衝動も抑えなくてはならなかった。

「(舐めたい!)」

口の両端をぐっと引き、自らの舌が、マムシのように口から飛び出し、『スミコ』の鼻を襲わぬようにした。

「どうですの!?福岡行のJANA便でWindowsをお使いになったこともおありなの?」

『スミコ』は、口を尖らせる。

「(まずい!舐めたい、口も!)」

ビエール・トンミー氏は、更に強く口の両端をぐっと引いた。

「ん、もう!どうしてお答えにならないの!?福岡行のJANA便でWindowsをお使いになったこともおありですの?」

それ以上、『スミコ』を怒らせる訳にはいかず、ビエール・トンミー氏は、舌が勝手なことをせぬよう、慎重に口を開いた。

「…んん、…ありますが…」


(続く)



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