「しかしだ、多くのマスコミは、ただ発表された感染者数が増えたとか減ったとか、東京の感染者数が、100人を超えた、100人を割った、といったことしか云わん。馬鹿なのか!」
リビングルームで、ソファに座り、テレビでニュースを見ているビエール・トンミー氏は、妻が横に座っているのも忘れ、吠えた。
「東京の感染者数が圧倒的に多いと思われているが、それも疑問だ。確かに、東京の感染者数が圧倒的に多いだろうが、当り前じゃないか。人口が圧倒的に多いんだからな。しかし、検査数比や人口比で云うと本当に多いのか?」
妻は、テレビではなく、吠える夫の横顔を愛おしそうに見ている。
「だが、そう云うと、今度は、ただ単純に人口比では、どこそこの県の感染率の方が高い、とか、感染者数の増加率は、どこそこの県の方が高い、なんてことを云い出す奴が出てくるだろう。愚か者めが!」
ビエール・トンミー氏は、眼の前のテーブルに、妻が入れてくれた紅茶があることも、怒りで忘れたかのようだ。
「仮にだ、仮にある県の感染者数が、ある日、1人だったとし、その翌日に3人になったら、3倍に増えた、ということになるんだ。それにどれだけの意味があるというのか!」
紅茶があることを忘れていなかったビエール・トンミー氏は、、ROYAL ALBERT(ロイヤルアルバート)の ポルカ・ブルーのティー・カップを手に取り、ゆっくりと紅茶を喉に流し込んだ。
「『持続化給付金』だって、売上が前年比で半減以上したことが条件らしいが、創業間もない企業や個人事業主は、比較対象となる前年の売上がなく、給付対象になっていない。今、そういったケースへの対応を検討するとなっているとも聞くが、そんなことハナから判っていることだ。最初から検討すべきじゃないかっ!」
まだ手に持ったままのティー・カップにビエール・トンミー氏の唾が飛び込んだ。
「実際、エヴァの奴は、今年から本格的に研修講師をしようとしていたが、今のご時世、研修なんてどこでもしなくなっている。アイツは商売上がったりだ。しかし、比較対象となる前年の売上(収入)がないから『持続化給付金』なんてもらえやしない」
本当のところ、友人ではあるものの、エヴァンジェリスト氏のことなんかどうでも良かったが、論を組立て上、事例が欲しく、友人の名前を出した。
「『比率』というものには限界があるんだ。分母や分子が、ゼロであるとか極めて小さい等の異常値があると、『比率』は意味を為さない。だから、財務分析なんかする場合、参照しようとする比率の分母が利益を使っているようなものは要注意だ。利益がゼロであったり、マイナスになったり、つまり利益ではなく、損失になってしまうと、分析不能なんだ。それにだ、中小企業の財務分析にあたっては、比率分析は余りあてにならないんだ。総資産や売上、利益等の数値が小さいから、『比率』で見ると、数値が大きく、しかも、急に変動し易いんだ」
(続く)
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