(うつり病に導かれ[その62]の続き)
「本当ですのねっ!?」
『タノ9薬局』のカウンターで、『スミコ』と呼ばれた八重歯の星由里子に酷似した女性の口から唾が飛び出した。そして、カウンターの向こう側にいるビエール・トンミー氏に、右手の甲に着地した。
「(んぐっ!)」
ビエール・トンミー氏の右手が震えた。
「(舐めたい!)」
口の両端をぐっと引き、自らの舌が、マムシのように口から飛び出し、右手の甲を襲わぬようにした。
「その時、CAから訊かれませんでしたこと、『Windowsですか?』って」
『スミコ』は、ビエール・トンミー氏が想像だにしなかったことを云い出してきた。
「へ?」
口の中にマムシがいることも忘れ、ビエール・トンミー氏は、口をあんぐりと開けた。
「そして、そのCAに、『いきなりPDF』のインストールを頼まれましたでしょ?」
ビエール・トンミー氏に渡すはずの処方薬の入ったビニール袋をギュッと握り締めて、『スミコ』の言葉は、詰問調となった。
「(え!まさか…)」
『スミコ』と呼ばれた八重歯の星由里子に酷似した女性のその言葉の勢いに、ビエール・トンミー氏は、思わず、身を椅子の背まで引いた。
(続く)
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