(うつり病に導かれ[その65]の続き)
「どうした?ドブに落ちるではないか」
と云いながら、エヴァンジェリスト少年は、友人の体を支えた。
「痛い!顔に牙が!」
ビエール・トンミー少年は、目を閉じたまま、頬に手を当てた。
「ふん!色男め、女に噛まれたな」
と云うエ友人の言葉に、ビエール・トンミー少年は、眼を開けた。
「へ?...ここは?」
支えてくれていた友人から身を起こし、辺りを見回した。
「いつもの通学路だ」
ビエール・トンミー少年の眼に煉瓦の建物が入ってきた。
「あ……」
思い出した。自宅のある牛田からわざわざ青バス(広電バス)に乗って、中国自動車学校前まで行き、広島市立翠町中学の東側の道を北上し、翠町の友人のウチまで行き、一緒に広島県立広島皆実高校まで通学するようにしていたのだ。
「(『被服廠』...)」
友人のウチの横の道を北上し、翠町公園(今は、翠町第二公園というらしいが)の東側の道を更に北上し、突き当りの角を左折、次の道角を今度は右折した道路の突き当たりには、煉瓦造りの古い建物である『被服廠』(正式には『被服支廠』らしいが、当時、地元では『被服廠』と呼んでいた)があった。その前にあるドブ川に沿っていき、しばらくして右折した通りにも、『被服廠』は続いていた。
「そうだよ。云うまでもなく『被服廠』だ」
友人の声は、冷徹であった。
「(どうしてだ?ボクの心を読んだのか?)」
ビエール・トンミー少年は、その疑問に上目遣いになった。
「毎日、見てるだろ。あの日の爆風に歪んだままとなっている鉄の扉を」
(続く)
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