(うつり病に導かれ[その67]の続き)
「(へ?どういうことだ?)」
ビエール・トンミー少年は今、自分がどこにいるのか、再び分からなくなった。
「(何故、エヴァの奴が、まだ高校生のエヴァの奴が、『ローラ』だとか、『外田有紀』、『松坂慶美』、『スミコ』だとかのことを知っているのだ?)」
『ローラ』だとか、『外田有紀』、『松坂慶美』、『スミコ』だとかのことは、2020年のことだ。65歳の自分が、2020年の年明けに風邪をひいて、クリニックや薬局に行った時に出会った女性たちなのだ。
「(それに……)」
ビエール・トンミー少年は、口撃をしてきている友人を睨み返した。
「お!なんだ、なんだ!?」
エヴァンジェリスト少年は、一瞬、怯んだ。
「なんだかんだ云ってるが、君だって、『帰国子女』子ちゃんだとか、『トウキョウ』子さんだとか、『クッキー』子さん、『パルファン』子さん、『肉感的な』少女だとか云ってたじゃないか!」
云いながら、ビエール・トンミー少年は、怒りが増してきた。時空に関する疑問が消えていた。
「『被服廠』のことは、君に云われるまでもない。ボクだって知ってるさ!」
「君は、広島人ではないではないか!」」
「広島生れではないが、ボクだって、中学・高校生活をここ広島で送っているんだ!原爆のことは十分に知っているつもりだ!原爆は反対だ!」
「へえ、そうなんだ」
友人は、それまでの喧嘩腰を引っ込め、道に転がる石を軽く蹴り、横の塀を見た。
二人の広島皆実高校生は、原爆の爆風で上部が『へ』の字型になってしまった『被服廠』のレンガ塀の横を通っていた。後に、広島平和記念資料館に寄贈されることになる塀である。
(続く)
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