(うつり病に導かれ[その72]の続き)
「アータ、しっかりして!」
優しい声が、稲妻を消した。
「え?」
ビエール・トンミー氏は、重い瞼を上げた。
「アータ、ああ、大丈夫なのね。おっきな声出すから、心配したわ。さあ、お粥よ」
と、声を掛けられ、自分が自分の部屋のベッドに寝ていることを知った。風邪をひいたのだ。
「ああ…」
と弱った声で返事し、ふらつきの残る上半身を起き上がらせた。妻が、お粥を作って持って来てくれていたのだ。
「じゃ、アーンして」
ベッド・サイドに腰を落とした妻が、スプーンでお粥を掬い、食べさせてくれる。
「アーン」
新婚の頃は、病気でなくとも、こうして『アーンして』をしたことを思い出す。
「(んぐっ!)」
それも、口移しであった。
「うーん、もう!また、何を思い出してるの!」
と、妻は、夫の布団を叩く。
「うっ!」
股間を叩かれ、呻いた。
「口移しだと、風邪、伝染っちゃうでしょ」
と、頬を染めがら、また、スプーンでお粥を掬う。
「はーい、また、アーンして」
しかし、頭痛が酷く、熱も下がらず、お粥は、2-3口しか口にできなかった。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿