2020年4月12日日曜日

うつり病に導かれ[その73]






「アータ、しっかりして!」

優しい声が、稲妻を消した。

「え?」

ビエール・トンミー氏は、重い瞼を上げた。

「アータ、ああ、大丈夫なのね。おっきな声出すから、心配したわ。さあ、お粥よ」

と、声を掛けられ、自分が自分の部屋のベッドに寝ていることを知った。風邪をひいたのだ。

「ああ…」

と弱った声で返事し、ふらつきの残る上半身を起き上がらせた。妻が、お粥を作って持って来てくれていたのだ。

「じゃ、アーンして」

ベッド・サイドに腰を落とした妻が、スプーンでお粥を掬い、食べさせてくれる。





「アーン」

新婚の頃は、病気でなくとも、こうして『アーンして』をしたことを思い出す。

「(んぐっ!)」

それも、口移しであった。

「うーん、もう!また、何を思い出してるの!」

と、妻は、夫の布団を叩く。

「うっ!」

股間を叩かれ、呻いた。

「口移しだと、風邪、伝染っちゃうでしょ」

と、頬を染めがら、また、スプーンでお粥を掬う。

「はーい、また、アーンして」

しかし、頭痛が酷く、熱も下がらず、お粥は、2-3口しか口にできなかった。


(続く)



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