(うつり病に導かれ[その70]の続き)
「おんどりゃー、何、ごちゃごちゃ云うとるんならあ!」
広島県立広島皆実高校に通学する為、煉瓦造りの古い建物である『被服廠』(正式には『被服支廠』らしいが、当時、地元では『被服廠』と呼んでいた)の横の道を通っていた、2人の広島皆実高校生の前に立ちはだかったドスの利いた声の主は、角刈りであった。
「(え!菅原文太?)」
と、ビエール・トンミー少年が思う間も無く、男は、ビエール・トンミー少年の顔に自らの顔を鼻がつく程に近づけてきた。
「(え、暴力団?)
『被服廠』の横の道を北上し、その道を抜ける少し前のところに、当時(ビエール・トンミー少年が、広島皆実高校生だった頃)、広島一の暴力団の会長の家があったのだ。最初は、ただの民家としか見えなかったが、その内に、塀と家との間にジェラルミンのような金属が貼られ、異様な建物となった。
家の前には、ビール箱が幾つも重ねられ、近所には、角刈りで強面の男たちがたむろする時があった。機動隊の警察官が来ている時もあった。
「わりゃ、何、カバチタレとんじゃあ!」
菅原文太、いや、菅原文太に酷似した角刈りの暴力団員が、いやいや、角刈りではあったが、暴力団員とは限らない、菅原文太に酷似した男が、凄んだ。
「何が、『原爆反対』じゃないじゃとお!『原爆』は『反対』に決まっとろーが!」
菅原文太、いや、菅原文太に酷似した角刈りの男の唾が、顔にかかる。
「い、いえ、『原爆反対』じゃない、というのは、ボクではなく、友だちで..」
と横を向くものの、そこにはもう、エヴァンジェリスト少年の姿はなかった。エヴァンジェリスト少年は、既にその場を離れ、前に歩いて行っていた。
「他人のせいにするなやあ!わりゃ、男らしゅうないのお」
ビエール・トンミー少年の股間は、
「はい!ボクは男らしくありません」
とでも云っているかの如く、縮み上がっていた。
(続く)
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