JANAのスチュワーデス(CA)はエヴァンジェリスト氏の方に振り返り、iBookを見て(いや、エヴァンジェリスト氏を見て、であったであろう)、
「ふふ」
と、声は出さず微笑んだ。
その様子を見たビエール・トンミー氏は、
「エヴァの奴う…..!」
と、呻くと、怒りに喉が渇き、飲み物サービスでもらったりんごジュースを一気に飲み干した。
そして、空になった紙コップをPCのキーボードの上に置いたその時であった。
「お客様、飲み物のお代りは如何ですか?」
斜め後ろから、ビジネス・ライクな声がした。
ビエール・トンミー氏が、振り向こうとした時、その声は、
「あら……..」
と声音を変えたのであった。
「Windowsですか?」
そう声を掛けてきていたのは、スチュワーデス(CA)であった。彼女は、ビエール・トンミー氏氏の席の横に立った。
スチュワーデス(CA)は、ビエール・トンミー氏に、
「Windowsですか?」
と訊いて来たのだ。
「ええ」
と答えながら、ビエール・トンミー氏は、合点した。
そうか!今度は、俺の番なのだ!
おかしいと思っていたのだ。スチュワーデス(CA)が、エヴァンジェリスト氏にだけ、仕事を忘れ、声を掛けるのは、おかしいと思っていたのだ。
確かに、エヴァンジェリスト氏はハンサムだ。他ではそう見かけない程のハンサムな男だ。
しかし、自分で云うのも面映いが、自分の方が、エヴァンジェリスト氏よりずっとハンサムだ。
確かに、エヴァンジェリスト氏は、美しい白いiBookを持っている。だからと云って、俺を差し置いて、彼だけがスチュワーデス(CA)から、私語を離れ声を掛けられるのは妙だと思っていたのだ。
そもそも美しい白いiBookは口実なのだ。
スチュワーデス(CA)は、エヴァンジェリスト氏から離れる際に、
「ふふ」
と、声は出さず微笑んだ。その様子が総てを物語っていた。
スチュワーデス(CA)は、美しい白いiBookではなく、実は、エヴァンジェリスト氏に魅かれていたのだ。
であるなら、美しい白いiBookは持っていないが、自分に対して、スチュワーデス(CA)が、仕事を忘れ、声を掛けて来て、何ら不思議なはないのだ。いや、必然ですらあるのだ。
だから、スチュワーデス(CA)は、今度は自分に、
「Windowsですか?」
と、声を掛けて来たのだ。
「ええ」
と、答えながら、ビエール・トンミー氏は、スチュワーデス(CA)の次の言葉を予期していた。
「いいですよねえ。アタシ……..」
と。
しかし、スチュワーデス(CA)が実際に発した言葉は…..
「いいです…….」
(続く)
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