2017年12月4日月曜日

「Windowsですか?」(その12)[流涎のビエール・トンミー氏]



JANAのスチュワーデス(CA)はエヴァンジェリスト氏の方に振り返り、iBookを見て(いや、エヴァンジェリスト氏を見て、であったであろう)、

「ふふ」

と、声は出さず微笑んだ。

その様子を見たビエール・トンミー氏は、

「エヴァの奴う…..!」

と、呻くと、怒りに喉が渇き、飲み物サービスでもらったりんごジュースを一気に飲み干した。

そして、空になった紙コップをPCのキーボードの上に置いたその時であった。

「お客様、飲み物のお代りは如何ですか?」

斜め後ろから、ビジネス・ライクな声がした。

ビエール・トンミー氏が、振り向こうとした時、その声は、

「あら……..」

と声音を変えたのであった。






「Windowsですか?」

そう声を掛けてきていたのは、スチュワーデス(CA)であった。彼女は、ビエール・トンミー氏氏の席の横に立った。

スチュワーデス(CA)は、ビエール・トンミー氏に、

「Windowsですか?」

と訊いて来たのだ。

「ええ」

と答えながら、ビエール・トンミー氏は、合点した。

そうか!今度は、俺の番なのだ!

おかしいと思っていたのだ。スチュワーデス(CA)が、エヴァンジェリスト氏にだけ、仕事を忘れ、声を掛けるのは、おかしいと思っていたのだ。

確かに、エヴァンジェリスト氏はハンサムだ。他ではそう見かけない程のハンサムな男だ。

しかし、自分で云うのも面映いが、自分の方が、エヴァンジェリスト氏よりずっとハンサムだ。

確かに、エヴァンジェリスト氏は、美しい白いiBookを持っている。だからと云って、俺を差し置いて、彼だけがスチュワーデス(CA)から、私語を離れ声を掛けられるのは妙だと思っていたのだ。

そもそも美しい白いiBookは口実なのだ。

スチュワーデス(CA)は、エヴァンジェリスト氏から離れる際に、

「ふふ」

と、声は出さず微笑んだ。その様子が総てを物語っていた。

スチュワーデス(CA)は、美しい白いiBookではなく、実は、エヴァンジェリスト氏に魅かれていたのだ。

であるなら、美しい白いiBookは持っていないが、自分に対して、スチュワーデス(CA)が、仕事を忘れ、声を掛けて来て、何ら不思議なはないのだ。いや、必然ですらあるのだ。

だから、スチュワーデス(CA)は、今度は自分に、

「Windowsですか?」

と、声を掛けて来たのだ。



「ええ」

と、答えながら、ビエール・トンミー氏は、スチュワーデス(CA)の次の言葉を予期していた。

「いいですよねえ。アタシ……..」

と。

しかし、スチュワーデス(CA)が実際に発した言葉は…..

「いいです…….」


(続く)



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