JANAのスチュワーデス(CA)が、勤務中の機内で仕事を忘れ、甘えた声で話し掛けている男は、『プロの旅人』であった。
ビエール・トンミー氏は、口の中で叫んだ。
「エヴァ!」
そう、ビエール・トンミー氏がよく知る男は、そう、彼の友人であるエヴァンジェリスト氏であった。
「iBookって、使い易いんですよね。使っている人に訊くと皆、そう云うんですう」
『ですう』と、スチュワーデス(CA)に話し掛けられたエヴァンジェリスト氏は、
「ええ、使い易いですよ。全然違います。機会があれば、切替えて下さい」
と答えるに留めていた。
ビエール・トンミー氏は、自分なら、『機会があれば私がセットアップもお手伝いしますし、その後も分らないことがあればサポートしますよ』、と云うぞ、と思った。
しかし、エヴァンジェリスト氏は、『機会があれば、切替えて下さい』という以上の言葉を発しなかったからであるのか、スチュワーデス(CA)は、
「ええ…………」
と云ったまま、エヴァンジェリスト氏の席の横にまだ立ったままでいた。
そうか!焦らし作戦なんだな!
焦らして、焦らして、スチュワーデス(CA)の想いを更に募らせる作戦なんだ!汚い奴め!
ビエール・トンミー氏の顔の紅潮は、頂点に達しようとしていた。
「やっぱりいいですよねえ。いいなあ」
未練がましくそう云うと、スチュワーデス(CA)は、ようやくエヴァンジェリスト氏の側を離れた。
前方に向いながら、スチュワーデス(CA)は振り返り、iBookを見て(いや、エヴァンジェリスト氏を見て、であったであろう)、
「ふふ」
と、声は出さず微笑んだ。
その様子を見るビエール・トンミー氏は、髪に覆われた頭皮まで紅潮していた。
「エヴァの奴う…..!」
と、呻くと、怒りに喉が渇いたビエール・トンミー氏は、飲み物サービスでもらったりんごジュースを一気に飲み干した。
そして、空になった紙コップをPCのキーボードの上に置いた。
その時であった。
「お客様、飲み物のお代りは如何ですか?」
斜め後ろから、ビジネス・ライクな声がした。
ビエール・トンミー氏が、振り向こうとした時、その声は、
「あら……..」
と声音を変えたのであった
(続く)
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