「ああ、もっと責められたい!」
と、誰にも聞こえぬ程の声で呟くと、ビエール・トンミー氏は、薬指を自らの口に持っていった。
Winows PCのキーボードに付いたJANAのスチュワーデス(CA)が飛ばした泡状の唾を薬指で掬っていたのだ。
「Windowsって、どうして、テン・キーに『=』がないんですか?!」
と、責めるスチュワーデス(CA)の唇を瞼の裏に浮かべていた。
「ああ……」
俺は、もう、あのスチュワーデス(CA)に囚われてしまった。
そう思った時であった。
「Windowsって、複数のプログラムを起動させたままでいいんですか?!」
またまたまた、席の横から、質問というか、詰問が飛んで来た。あのスチュワーデス(CA)だ。
まだいたのか!スチュワーデス(CA)の仕事はしなくていいのか?
「iOSって、通常は、再起動しなくてもいいし、アプリは複数起動させたままそのままにしていていても動作に影響がないんですって」
ああ、確かにそうだ。自分もiPhoneは滅多に電源を落とさないし、アプリはいくつも開いたままだ。
以前は、アプリはまめに閉じていたが、少し前にそうする必要がないことを知った。
「Windowsも、アプリは複数起動させたままそのまましていていてもいいんですか!?」
言葉は質問になっているが、スチュワーデス(CA)は答を知っていて訊いているのだ。
「いえ、Windowsは、複数のプログラムを起動さたたままでは動作が不安定なので、作業が終わったプログラムは終了させるようにします……」
「ん、もう、もう、もう、もう!いい加減にして下さい!iPhoneみたく小さい機械にできることが、もっと大きい機械のWindows PCでできないんですか!」
反論できない。長くWindowsを使い続けているだけだと、その世界では当り前であったことが、つまり、Windowsの世界では当り前であったことが、実はそうではないことを今は知っている。
iPhoneが別の世界が存在することを嫌でも自分に知らしめた。そして、リタイアしてまた頻繁に会うようになった友人(エヴァンジェリスト氏)のMac愛も、自分にWindowsの不便を思い知らせた……
「んん?リタイアして……?」
ふと、疑問がビエール・トンミー氏の眉間に浮かんだ。
しかし、ビエール・トンミー氏の両眼は、三度(みたび)、Windows PCのキーボードに泡状のものを見つけた。
ビエール・トンミー氏は、自分の右手が、キーボードに伸びるのを抑えることができなかった。
(続く)
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