「私が変えたいのは、自分のフライト・スケジュールを入れたエクセルのファイルのアイコンだけなんですう」
と云うJANAのスチュワーデス(CA)に、ビエール・トンミー氏は、
「ああ、それはですねえ」
と、今度は、生やしていない顎髭を撫でるような仕草をして、徐に口を開いた。
「先ず、貴女のそのエクセル・ファイルのショート・カットを作成して….」
しかし、落ち着いた口調のビエール・トンミー氏の解説は、
「ドン!」
という飛行機の床の音に再び遮られた。
「ん、もう、もう、もう、もう!いい加減にして下さい!そんなこと知ってますう!でも、誰がそんな面倒臭いことをするんですか!」
「いや、まあ…..」
ビエール・トンミー氏は、自分が人工甘味料『スクラロース』よりも甘かったことを思い知らされた。
「要するに、Windowsって、ファイルやフォルダーのアイコンを変えられないんですね!」
「いや、説明しましたように、変えられない訳では…..」
「言い訳はよして!見苦しいわ!」
スチュワーデス(CA)の言葉は、もう完全にスチュワーデス(CA)のものではなくなっていた。
そして、
「やっぱりiBookの方がいいわ」
と、捨て台詞を吐くと、スチュワーデス(CA)は、ようやくビエール・トンミー氏の側を離れた。
前方に向いながら、スチュワーデス(CA)は振り返り、Windows PCを見て(いや、ビエール・トンミー氏を見て、であったであろう)、
「ふん!」
と、鼻を鳴らした。
打ちのめされたビエール・トンミー氏は、自分のWindows PCに目を落とした。
すると、数列前の席辺りで、甘えるような声がした。
「やっぱりいいですよねえ。iBook、いいなあ」
スチュワーデス(CA)はまた、エヴァンジェリスト氏の横に立つと、エヴァンジェリスト氏の方に思い切り上半身を屈め、声を掛けていた。
「エ、エ、エヴァの奴う!」
ビエール・トンミー氏は、エナメル質を損傷させる程、歯軋りをした。
(続く)
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