2020年11月20日金曜日

バスローブの男[その22]

 


「そう、原宿のリチャード・ギアだわ」


社内のエレベータホールに来た経理の女性社員の内、女性社員の憧れの男性社員であるビエール・トンミー氏のことを、アラン・ドロンよりもっとダンディだ、と称した女性社員が、当時の人気ハリウッド俳優の名前を出した。


「ええ、ダンディよね、トンミーさんって。でも…」


もう一人の女性社員が、エレベータホールに他の女性社員が2人いることに気付き、声をひそめて言葉を続けた。




『原宿の凶器』とも云われてるのよ」


しかし、声をひそめたその言葉は、エレベータホールに他の女性社員達の耳に届いた。


「(え?!『凶器』)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』の耳は、『凶器』という言葉を逃さなかった。


「トンミーさんの相手をしたことのある女性が、云ってたの。トンミーさんって、『原宿の凶器』で、壊されそうだったって」


ビエール・トンミー氏のことを『原宿の凶器』と噂する女性社員が、証言を続けた。


「んぐっ!」


マダム・トンミーと共に、ビエール・トンミー氏の噂を耳にしたトシ代は、体の芯が疼くのを感じた。トシ代は、『原宿の凶器』の意味を理解したからであった。しかし、マダム・トンミーは……



(続く)




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