「(んぐっ!)」
マーケティング部の壁際に置かれたパソコンの前に座る『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、遠のきそうになる意識の一方で、体の芯が覚醒した。
「いやあ、すっかり混乱させてしまいましたね。ごめんなさい」
と、謝るビエール・トンミー氏の言葉通り、マダム・トンミーは、混乱していたが、それは、ビエール・トンミー氏の説明から来るものだけではなかった。
「(ああ、何、これ?)」
マダム・トンミーは、また鼻腔を広げた。
「どうかされましたか?」
と、ビエール・トンミー氏は、マダム・トンミーの顔を覗き込むようにした。
「(ああ、臭い!でも…んぐっ!)」
マダム・トンミーは、彼女の体の芯を疼かせるものの正体を認識した。
「(トンミーさんの口…)」
ビエール・トンミー氏の口臭に襲われたのだ。
「(臭いけど…私、納豆…好き)」
マダム・トンミーは、鼻腔を広げたまま、両眼は微睡んだように半開きとなっていた。
(続く)
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