2020年11月27日金曜日

バスローブの男[その29]

 


「(んぐっ!)」


マーケティング部の壁際に置かれたパソコンの前に座る『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、遠のきそうになる意識の一方で、体の芯が覚醒した。


「いやあ、すっかり混乱させてしまいましたね。ごめんなさい」


と、謝るビエール・トンミー氏の言葉通り、マダム・トンミーは、混乱していたが、それは、ビエール・トンミー氏の説明から来るものだけではなかった。


「(ああ、何、これ?)」


マダム・トンミーは、また鼻腔を広げた。


「どうかされましたか?」


と、ビエール・トンミー氏は、マダム・トンミーの顔を覗き込むようにした。


「(ああ、臭い!でも…んぐっ!)」


マダム・トンミーは、彼女の体の芯を疼かせるものの正体を認識した。


「(トンミーさんの口…)」


ビエール・トンミー氏の口臭に襲われたのだ。


「(臭いけど…私、納豆…好き)」




マダム・トンミーは、鼻腔を広げたまま、両眼は微睡んだように半開きとなっていた。


(続く)



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