「(でも、あの噂だけはガセだったと思う)」
マダム・トンミーは、同じ会社に勤めていた結婚前の夫の女性に関する噂を思い出していた。色々な部署の女性や取引のある会社の女性との噂の中でも、今でも信じたくない噂があった。
「(だって、あの人、若い娘が好きだもの)」
10歳も歳下の自分を結婚相手に選んだことから、そのことに確信はあった。けれど……
「(まさか『お局様』となんて!)」
『お局様』は、人事総務部の古株の女性社員であった。
「(だって、もう50歳を過ぎていたはずだわ。そんな『お局様』となんて…)」
と思いはするものの、今も胸騒ぎがするのを止めることができない。
「(確かにお綺麗ではあったけど…)」
『お局様』は、美人であった。今で云うと、『美熟女』だ。独身であった。
「(若い男性社員の中にも、『お局様』を物欲しそうに見る子たちがいたけど…)」
専務の『元カノ』だったとも云われ、社長とも『関係』を持ったことがあると聞いたこともある。『お局様』は、役員秘書をしていたこともあった。
「(フケツだわ!『お局様』とあの人がなんて!)」
『お局様』と夫とのことは、単なる噂に過ぎず、それも、もう30年も前のことであったが、マダム・トンミーの脳裡には、未だに消すことのできない映像があった。
(続く)
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