「そうね、この洗濯機もアータが選んだんですものね」
マダム・トンミーは、『洗濯が好きだから』、と自身のバスローブの洗濯を自分ですることに拘る夫に、そう云うと、洗濯機の置いてあるお風呂の脱衣場を背にした。
「(あの人ったら、本当にIT家電が好きだわ)」
リビングルームに戻り、部屋の隅で家来が殿様の側に控えるようにじっとしているロボット掃除機を見ながら、心中、つぶやいた。夫が選んだ洗濯機もIT家電で、色々なAI機能が搭載されていた。
「(それに、あの人、凝り性というか、拘りが凄いんだもの)」
ロボット掃除機を買う時もそうだったが、洗濯機を買う時も、夫は、主要メーカーの様々な機種について、ネットで調べ、更には、家電量販店に実機を見にも行き、販売員にヒアリングも重ね、その上で、Excelに比較表まで作って検討していたのだ。
「(だから、結婚も遅くなったのね。でも、拘った結果が、アタシだったんだわ。ふふっ)」
マダム・トンミーは、夫より10歳も歳下であった。同じ会社に勤めていたが、部署は違った。自分は、マーケティング部で、夫は、システム開発部であった。
「(色々、噂は耳にしてなくはなかったけど…)」
ハンサムで背も高く、有名大学(ハンカチ大学)出身の夫は、女性社員の憧れの的であった。
「(本当だったのかしら……?)」
秘書室の女性と付き合っているらしいとか、広報部の女性と一緒に夜の街を歩いているのを見かけたとか、システム開発会社の美人SEと深夜までシステム開発部の会議室に2人きりで篭っていたとか、女性に纏わる噂は決して少なくはなかった。
(続く)
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