2020年10月13日火曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その144]

 


治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その143]の続き)



「『みさを』ちゃんったら、さあ」


訊きもしないのに、男は、ビエール・トンミー氏に、男が行ったその手の『店』での『みさを』とのことを話す。ハンカチ大学の同級生だが、友だちではない男だった。


「云ってくれたんだよなあ、『おっきいねえ』ってさあ。ふふふ」


殺意を抱いた。しかし、その時、ビエール・トンミー氏の耳に、


『おっきいねえ』


という『みさを』の甘い声が蘇ってきた。鎌倉大仏を前にした『みさを』の言葉だった。


(参照:治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その124]


「(『みさを』は、あの言葉を、『おっきいねえ』という言葉を、あの甘い言葉を、畜生!こんなお下劣な男に云ったのか!嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だあ!)」


という心の中の自分の言葉に鼓膜が破れそうになったビエール・トンミー氏の耳に、


『おっきいねえ』


再び、その言葉が聞こえた。しかし、それは『みさを』の声ではなかった。






「えっ?」


ビエール・トンミー氏は今、自分が、何処にいるのか、何処に何時(いつ)いるのか分らなくなった。


「どうした?」


今度のその声は、友人のエヴァンジェリスト氏のものであった。『みさを』の『サービス』を受けた男と話していたと思ったが、エヴァンジェリスト氏と鎌倉にいることを思い出した。


「おい、暗くて見えないか?もう、鎌倉駅までも戻ってきたぞ」


そこは、小町通りの入口だった。若いカップルが、そこにある赤い鳥居を見上げていた。


『おっきいねえ』


と云ったのは、カップルの女の方であったようだ。


「どうする?もう帰るのか?」


エヴァンジェリスト氏が、訊いてきた。



(続く)



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