「ん、まあ!」
自宅のリビングルームでテレビの江ノ島に関するニュースを見ている内に眠ってしまい、ソファから落ちた夫を抱きかかえたマダム・トンミーが、夫の股間を見て感嘆の声を上げた。
「アータったら、んもう、『元気』になったのねえ!」
夫のビエール・トンミー氏は、自分を抱きかかえる妻の胸の柔らかさを感じたままであった。
「あの頃は、アータ、本当に『元気』だったもの、うふん」
妻は、夫の顔を更に自分の胸に押し付けた。
「むふっ!んぐっ!」
夫は噎せた。
「シーキャンドルに上った時も、『Eggs'n Things』でパンケーキを食べてた時も、アータの魂胆、知ってたのよ」
「(え?)」
「鎌倉文学館でも、鎌倉大仏でも、鶴岡八幡宮でも直ぐに腰に手を回して来たでしょっ」
「(あ!)」
「鎌倉駅前のスターバックスでも、テーブルの下で、脚をアタシの脚の間に入れてくるんだもの、アータったら!」
「んぐっ!」
「でええ…その後、むふっ…」
妻は、自分の胸に押し付けた夫の顔を、押し付けたまま揺する。その時、
「ね、知ってる?」
『みさを』の声が、聞こえた。
「(え!?え!?えー!?)」
ビエール・トンミー氏は、再び、今自分が置かれている状況が、分らなくなった。
「(こ、この胸は?)」
柔らかな胸に顔を押し付けられ、両眼は閉じられたまま、頭の中の疑問をよそに、股間だけは自立して『反応』した。
「んぐっ!」
理性が本能に負け、テレビで常盤貴子のキャベジンのCMが流れていることに気付かなかった。
「んぐっ!んぐっ!」
そして、前の晩、有料動画サービスで、若き日の常盤貴子が出演したドラマ『悪魔のKISS』を見たことも忘れていた。
「んぐっ!んぐっ!んぐっ!」
『悪魔のKISS』の中で、ファッションヘルス嬢となった源氏名『みさを』こと、常盤貴子が潔く晒した白い胸を見て興奮したことも忘れ、ただ今の状態に、本能が、股間が、強く『反応』していた。
……一方、サラリーマン時代、『仕事依存症』と診断された友人のエヴァンジェリスト氏は、今度は日々、Essential Workerとしてスーパーのカゴとカートの整理に追われ、その間に、睡眠時間を削って、88歳の女性の自伝的エッセイ集の自費出版のプロデュースと、『病気』は未だ癒えてはいないようであった。
(おしまい)
0 件のコメント:
コメントを投稿