2020年10月17日土曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その148]

 


治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その147]の続き)



「いや、君には本当に感謝しているんだ。ボクの『仕事依存症』という病を治そうと、江ノ島、鎌倉に連れてきてくれて」


エヴァンジェリスト氏は、スターバックス鎌倉店で向い合って座る友人のビエール・トンミー氏に頭を下げた。


「だけど、今日のこの『旅』は、ボクの治療の為だけだったのではないだろう?『みさを』との思い出を辿る旅でもあったんだろう?」


下げた頭から上目遣いで友人に皮肉な言葉を送った。


「何を云っているのか、さっぱり分らん」


ビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏の追及を誤魔化すように窓の外に眼を遣ったが、そこに見えたのは、窓に映った老人の姿であった。老いた自分しか見えなかった。





「(ああ、そうだ。エヴァ、君の云う通りだ。ボクは知っている)」


窓に映った老人に語りかける。


「(君のことを心配し、『旅』に誘ったが、行き先を江ノ島、鎌倉に選んだのは、『みさを』との思い出があったからだ)」


ビエール・トンミー氏は、唇を噛み締めた。


「(『みさを』との甘い思い出があったからだ……だが、ボクは思い出した。どうして、忘れていたのだろう。人は、辛いことは記憶から消してしまうのだろうか。『みさを』との甘い『旅』を辿る内に……『みさを』が鮮明に思い出される内に、『みさを』が実は『みさを』ではないことを思い出してしまった)」


クルマのライトで窓に映った老人の姿が消えた。ビエール・トンミー氏は、瞼を閉じ、光を避ける。


「(気持ちよかったぜ。『みさを』ちゃん、上手いんだよ)」


『店』で『みさを』の『サービス』を受けたと云う大学の同期の男の言葉が、頭の中に響いた。


「(んぐっ!)」


自らが『サービス』を受けた訳でもないのに、股間が『反応』した。『みさを』の『サービス』を受けたと云う男への怒りを抑えきれないのに、股間が勝手に『反応』し、それもまた抑えきれない。


「(『みさを』…!!)」


見たこともない『店』での『みさを』の姿が、閉じた瞼の裏に浮かぶ。



(続く)




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