2020年10月7日水曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その138]

 


治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その137]の続き)



「ボクの他にお客様向けに講演できるものはいないんだ」


鎌倉の鶴岡八幡宮の境内を進みながら、エヴァンジェリスト氏は、彼だけがしてきている顧客向けの講演について話していた。産業医の命令で2週間の休暇を取ることになった為、翌週の講演も自分ではできなくなったが、他に代りとなる存在がいなかった。


「どうでもいい、どうでもいい!会社が困ろうと、どうでもいいじゃないか!」


並んで歩くビエール・トンミー氏は、手水舎を横目に、苛立ちを増していた。


「アタシ…手を洗ってもキレイにならないんだけどね」


あの時、『みさを』は、ここ鶴岡八幡宮の手水舎で手を洗いながら、そう云った。


「(『みさを』の方が、」ずっと苦しんでいたんだ!)」




「いや、問題は会社じゃないんだ。お客様が困るんだ。そこが問題なんだ」


エヴァンジェリスト氏は、もう暗くて見えない境内の地面に視線を落としたまま歩いていた。


「いいか、客が困るって云うけど、君は後3年もしないうちに、65歳になって会社を辞めるんだ。そうしたら、もう君がしている講演をする者はいなくなるんだ」


ビエール・トンミー氏は、論理的に友人を責めた。


「そこも問題なんだ」

「君の後継者を会社は育てなかったんだろ?」

「ああ、会社にはその問題を云い続けてきたんだけど」

「でも、何もしてこなかったんだろ、会社は?」

「そうだ。でも、お客様に対して講演をすることが、営業にとってすごく重要なんだ。他社ではできないことだからな。マーケティングの要諦は、競合を作らないことだ。他者にできない要素を持てば競合はなくなるからな」


エヴァンジェリスト氏は、大胆にも天下のハンカチ大学商学部卒業のビエール・トンミー氏に、マーケティングを語る。



(続く)




0 件のコメント:

コメントを投稿