「ボクの他にお客様向けに講演できるものはいないんだ」
鎌倉の鶴岡八幡宮の境内を進みながら、エヴァンジェリスト氏は、彼だけがしてきている顧客向けの講演について話していた。産業医の命令で2週間の休暇を取ることになった為、翌週の講演も自分ではできなくなったが、他に代りとなる存在がいなかった。
「どうでもいい、どうでもいい!会社が困ろうと、どうでもいいじゃないか!」
並んで歩くビエール・トンミー氏は、手水舎を横目に、苛立ちを増していた。
「アタシ…手を洗ってもキレイにならないんだけどね」
あの時、『みさを』は、ここ鶴岡八幡宮の手水舎で手を洗いながら、そう云った。
「(『みさを』の方が、」ずっと苦しんでいたんだ!)」
「いや、問題は会社じゃないんだ。お客様が困るんだ。そこが問題なんだ」
エヴァンジェリスト氏は、もう暗くて見えない境内の地面に視線を落としたまま歩いていた。
「いいか、客が困るって云うけど、君は後3年もしないうちに、65歳になって会社を辞めるんだ。そうしたら、もう君がしている講演をする者はいなくなるんだ」
ビエール・トンミー氏は、論理的に友人を責めた。
「そこも問題なんだ」
「君の後継者を会社は育てなかったんだろ?」
「ああ、会社にはその問題を云い続けてきたんだけど」
「でも、何もしてこなかったんだろ、会社は?」
「そうだ。でも、お客様に対して講演をすることが、営業にとってすごく重要なんだ。他社ではできないことだからな。マーケティングの要諦は、競合を作らないことだ。他者にできない要素を持てば競合はなくなるからな」
エヴァンジェリスト氏は、大胆にも天下のハンカチ大学商学部卒業のビエール・トンミー氏に、マーケティングを語る。
(続く)
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