「あの爺さん、久しぶりね」
看護師のアグネスが、受付をしている同僚に吐き捨てるように云った。今しがた、治療を終えて帰って行った老人のことである。
「結膜炎だなんて、変態だからよ」
「あら、高齢になると、涙不足、脂不足でドライアイになりやすいんでしょ?」
同僚のシゲ代が訊いた。
「普通はね。でもあの爺さんは違うわ」
「でもあの方、トンミーさんって、とっても知的に見えてよ。大学教授みたい」
「国保だから、大学教授なんかじゃないわ。ただの退職老人よ」
「そうかしら。じゃ、元・大学教授じやないのかしら。西洋美術史を研究してらしてよ。この間も、『マティス評伝の決定版』って本をお持ちだったわ」
「そんなのポーズよ」
(続く)
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