2020年10月25日日曜日

疑惑と誘惑の結膜炎[その1]

 

「あの爺さん、久しぶりね」


看護師のアグネスが、受付をしている同僚に吐き捨てるように云った。今しがた、治療を終えて帰って行った老人のことである。


「結膜炎だなんて、変態だからよ」

「あら、高齢になると、涙不足、脂不足でドライアイになりやすいんでしょ?」


同僚のシゲ代が訊いた。


「普通はね。でもあの爺さんは違うわ」

「でもあの方、トンミーさんって、とっても知的に見えてよ。大学教授みたい」




「国保だから、大学教授なんかじゃないわ。ただの退職老人よ」

「そうかしら。じゃ、元・大学教授じやないのかしら。西洋美術史を研究してらしてよ。この間も、『マティス評伝の決定版』って本をお持ちだったわ」

「そんなのポーズよ」



(続く)



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