2020年10月8日木曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その139]

 


治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その138]の続き)



「君は本当に不思議な奴だなあ」


鎌倉の鶴岡八幡宮の本殿(上宮)に上がる階段を登りながら、ビエール・トンミー氏は、マーケティングを語る友人のエヴァンジェリスト氏の横顔を見て、云った。


「フランス文学修士なのに、ITに詳しく、マーケティングにも詳しいんなんてなあ」


ビエール・トンミー氏は、ハンカチ大学商学部卒業ではあったが、マーケティングの知識は殆ど全くなかった。マーケティングの講義も受け、単位は取ったはずだったが。


「(『みさを』は、どこの大学の学生だったんだろう?)」


何故か、思い出せなかった。


「ふう…きつかったあ」


エヴァンジェリスト氏が、肩で息をしていた。長い階段を登りきり、本殿(上宮)まで来ていた。


「女房とも来たと思うが、その時はこんなにキツイとは思わなかった。まあ、結婚前だから、まだ20歳代で若かかったからなあ」


という友人の言葉に、ビエール・トンミー氏の頭に、ふと疑問が浮かんだ。


「(ボクは、いつ『みさを』とここに来たんだろう?江ノ島も、鎌倉文学館も、鎌倉大仏へも、いつ『みさを』と行ったんだったか…?)」


『みさを』の顔だけは鮮明に覚えているが、夕暮れの中で、『みさを』に関する他の記憶が曖昧になっていた。


「もうすっかり暗くなったなあ。もう行こうか」


本殿(上宮)には全く興味がないのか、エヴァンジェリスト氏は、今登りきった階段の方に振り向き、本殿(上宮)を背にして、そう云った。


「おお、夕焼けかあ」


と友人が溜息をもらした時、




「常盤貴子さんですか?」


という女性の言葉が、ここ本殿(上宮)前で『みさを』にかけられたことを、ビエール・トンミー氏は、思い出した。江ノ島の『シーキャンドル』でも、同様の言葉を掛けられたが、芸能界に疎いビエール・トンミー氏は、『トキワタカコ』を知らなかった。


「そうよ、常盤貴子さんですね?!まあ、常盤貴子さん!」


ここ鶴岡八幡宮でも、声を掛けて来たのは二人連れの女性であった。二人共に、『みさを』のことを『トキワタカコ』と云った。



(続く)




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