「君は本当に不思議な奴だなあ」
鎌倉の鶴岡八幡宮の本殿(上宮)に上がる階段を登りながら、ビエール・トンミー氏は、マーケティングを語る友人のエヴァンジェリスト氏の横顔を見て、云った。
「フランス文学修士なのに、ITに詳しく、マーケティングにも詳しいんなんてなあ」
ビエール・トンミー氏は、ハンカチ大学商学部卒業ではあったが、マーケティングの知識は殆ど全くなかった。マーケティングの講義も受け、単位は取ったはずだったが。
「(『みさを』は、どこの大学の学生だったんだろう?)」
何故か、思い出せなかった。
「ふう…きつかったあ」
エヴァンジェリスト氏が、肩で息をしていた。長い階段を登りきり、本殿(上宮)まで来ていた。
「女房とも来たと思うが、その時はこんなにキツイとは思わなかった。まあ、結婚前だから、まだ20歳代で若かかったからなあ」
という友人の言葉に、ビエール・トンミー氏の頭に、ふと疑問が浮かんだ。
「(ボクは、いつ『みさを』とここに来たんだろう?江ノ島も、鎌倉文学館も、鎌倉大仏へも、いつ『みさを』と行ったんだったか…?)」
『みさを』の顔だけは鮮明に覚えているが、夕暮れの中で、『みさを』に関する他の記憶が曖昧になっていた。
「もうすっかり暗くなったなあ。もう行こうか」
本殿(上宮)には全く興味がないのか、エヴァンジェリスト氏は、今登りきった階段の方に振り向き、本殿(上宮)を背にして、そう云った。
「おお、夕焼けかあ」
と友人が溜息をもらした時、
「常盤貴子さんですか?」
という女性の言葉が、ここ本殿(上宮)前で『みさを』にかけられたことを、ビエール・トンミー氏は、思い出した。江ノ島の『シーキャンドル』でも、同様の言葉を掛けられたが、芸能界に疎いビエール・トンミー氏は、『トキワタカコ』を知らなかった。
「そうよ、常盤貴子さんですね?!まあ、常盤貴子さん!」
ここ鶴岡八幡宮でも、声を掛けて来たのは二人連れの女性であった。二人共に、『みさを』のことを『トキワタカコ』と云った。
(続く)
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