2020年10月3日土曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その134]

 


治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その133]の続き)



「君だって、『みさを』をモノにしたんだろ?」


エヴァンジェリスト氏は、鎌倉の小町通りを歩きながら、友人のビエール・トンミー氏に訊いた。妻となる女性(つまり、今の妻だ)と鎌倉で初デートをしながら、モノにする機会を窺ってばかりいた話をしたが、友人から、結局はモノにしたじゃないか(要は、結婚したじゃないか)、と突っ込まれたことへの反撃であった。


「うっ!」


睨み返したビエール・トンミー氏の眼が、光った。どこかの店の明かりが映ったのだ。


「え?君ともあろうものが、プラスチック、いや、プラトニックか?」


友人の気持ちも知らず、駄洒落にもならないジョークを飛ばしたが、


「(……『みさを』は、そんな女ではないんだ!)」


ビエール・トンミー氏は、無言で、友人に背を向け、小町通りから脇道に入って行った。


「おいおい、待てよ」


エヴァンジェリスト氏が後を追った。


「『露西亜亭』はもう少し先だったと思うんだが…」

「誰が、『露西亜亭』に行くんだ」

「え?行かないのか?」

「ボクたちは、デートをしているとでも思っているのか?」




「気持ち悪いことを云うなよ」

「ボクは、君のデートの思い出を辿るつもりもない」


と云ったが、ビエール・トンミー氏のその言葉は、彼自身を傷つけた。


「(ああ、ボクは知っている。そうだ、この道は、『みさを』と歩いた道だあ!)」



(続く)





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