「君だって、『みさを』をモノにしたんだろ?」
エヴァンジェリスト氏は、鎌倉の小町通りを歩きながら、友人のビエール・トンミー氏に訊いた。妻となる女性(つまり、今の妻だ)と鎌倉で初デートをしながら、モノにする機会を窺ってばかりいた話をしたが、友人から、結局はモノにしたじゃないか(要は、結婚したじゃないか)、と突っ込まれたことへの反撃であった。
「うっ!」
睨み返したビエール・トンミー氏の眼が、光った。どこかの店の明かりが映ったのだ。
「え?君ともあろうものが、プラスチック、いや、プラトニックか?」
友人の気持ちも知らず、駄洒落にもならないジョークを飛ばしたが、
「(……『みさを』は、そんな女ではないんだ!)」
ビエール・トンミー氏は、無言で、友人に背を向け、小町通りから脇道に入って行った。
「おいおい、待てよ」
エヴァンジェリスト氏が後を追った。
「『露西亜亭』はもう少し先だったと思うんだが…」
「誰が、『露西亜亭』に行くんだ」
「え?行かないのか?」
「ボクたちは、デートをしているとでも思っているのか?」
「気持ち悪いことを云うなよ」
「ボクは、君のデートの思い出を辿るつもりもない」
と云ったが、ビエール・トンミー氏のその言葉は、彼自身を傷つけた。
「(ああ、ボクは知っている。そうだ、この道は、『みさを』と歩いた道だあ!)」
(続く)
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