「だって、殆どのお客様に何の説明もなく、急に仕事から離れたんだ。お客様は困るだろうし、どうしたんだろう、と思うだろう」
スターバックス鎌倉店の席に座ったエヴァンジェリスト氏が、向いに座るビエール・トンミー氏に言い訳をする。『仕事依存症』の為、産業医の命令があり、急遽、会社の総ての業務から離れたものの、仕事のこと、担当するお客様のことが頭から離れないのだ。
「ああ、ダメだ、ダメだ。気にしない、気にしない」
ビエール・トンミー氏の怒りは、本気だ。
「そんなことを気にすること自体が『病気』なんだ!」
唾が、エヴァンジェリスト氏の飲むキャラメル・フラペチーノの容器に飛んだ。
「そうかあ…君の『みさを』病と同じなんだなあ」
キャラメル・フラペチーノの容器の蓋についた唾を見ながら、エヴァンジェリスト氏が呟いた。
「ええ?」
ビエール・トンミー氏が、訊き返した。
「君だって、『みさを』病に罹ってるんだろ?『みさを』ウイルスに冒されているんだろ?」
「な、なんだ!?『みさを』病なんかじゃない。いや、君は、『みさを』、『みさを』って云うが、それ、誰だ?そんな女知らないぞ」
「ふん、女だって知っているんだな。『みさを』が『みさお』ではなく、『を』であって、女だということを知っているんだな」
「…….君が、『みさを』を女だという前提で喋るからじゃないか」
「この席か?『みさを』と座ったのは?」
「違う、違う!...いや、知らん。何のことか分らん!」
「シー・キャンドルにも、鎌倉文学館にも、鎌倉大仏にも、鶴岡八幡宮にも『みさを』と行ったんだろ?」
「五月蝿い!」
声を荒げたビエール・トンミー氏に、店内の他の客たちからの視線が集った。
(続く)
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