2020年10月9日金曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その140]

 


治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その139]の続き)



「違いますうっ!常盤貴子なんて人知りません!人違いですっ!」


鎌倉の鶴岡八幡宮の本殿(上宮)を前にした暗がりの中でよく見えないなながらに、『みさを』の表情を、般若のようだと、ビエール・トンミー氏は思った。『みさを』は、二人連れの女性たちから、『常盤貴子』ではないか、と問われ、何故か、怒っていた。


「行くわ、ビーちゃん!」


と、『みさを』は、ビエール・トンミー氏の手を取ると、今登ったばかりの階段を下って行った。


「あ、あ、あー……」


『みさを』の剣幕に立ち竦む二人連れの若い女性たちの方に顔を残しながら、ビエール・トンミー氏は、『みさを』に引きずられて行った。






「『みさを』…」


ビエール・トンミー氏は、体を傾けたまま、『みさを』を呼んだ。


「おい、どうした?危ないぞ!また、『みさを』か?」


というエヴァンジェリスト氏の言葉に、ビエール・トンミー氏は、我に返った。


「階段から落ちそうだったぞ」


『みさを』に引きづられて階段を降りて行ったことを思い出している内に、意識が朦朧し、体が自然と階段に向って行っていたのだ。


「そうかあ、ここにも『みさを』と来たんだな」


エヴァンジェリスト氏は、それまでうじうじと漏らしていた仕事の心配もものかは、友人の憂いを楽しんでいるようであった。


「五月蝿い!行くぞ」


と云うと、ビエール・トンミー氏は、独り階段を下りていった。



(続く)




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