2020年10月6日火曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その137]

 


治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その136]の続き)



「ああ…」


鎌倉の若宮大路の『段葛』から、若宮大路の横を走る歩道にスーツを着たサラリーマンの姿を見て、エヴァンジェリスト氏が、溜息をもらした。


「昨日の打合せは、どうだったんだろう?」


前日(2016年10月17日=月曜日)、エヴァンジェリスト氏は、滋賀に出張をするはずだった。既存客との打合せの為だった。しかし、産業医の命令で急遽、2週間の休暇を取らざるを得なくなり、その打合せは、後輩の同僚に代ってもらったのだ。


「金曜日に、そのお客さんにだけは、体調不良でしばらく休みを取るから、後輩が代りに打合せに行くことは連絡したけど、他のお客さんには、何も連絡していないんだ。来週も、講演をしないといけないお客さんがあるんだけど」

「気にしない、気にしない」


『段葛』を一緒に歩くビエール・トンミー氏が、右手を挙げ、顔の前で左右に振った。


「産業医にもそう云われた。貴方が気にすることではない、と」

「産業医は、正しい。君が気にする必要はない」

「お客さんに対してどうするかは、上司が考えればいいことだ、と云われた」

「そうだ、その通りだ。あのヘッドセット野郎が講演をすればいいんだ」




『ヘッドセット野郎』とは、エヴァンジェリスト氏の上司であった。コールセンターでもない普通のオフィスでヘッドセットをつけている男だ。



(参考:治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その5]

(参考:治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その6]



「いや、あの男には無理だ。講演できるだけの知識はない」

「じゃあ、他の奴がすればいいんだっ」


『段葛』を降り、横断歩道を渡り、鶴岡八幡宮の鳥居を潜りながら、ビエール・トンミー氏は、苛立ちを隠さなかった。その苛立ちは、いつまでも仕事のことを気にして、うじうじとしている友人に対してであったが、自分自身に対してでもあった。


「(ボクは、『みさを』を理解していなかった…)」



(続く)



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