「『ハクシキ』って、ビーちゃんの為にある言葉だね」
『みさを』は、そう云うと、顔を伏せた。エヴァンジェリスト氏と歩く鎌倉の若宮大路の『段葛』で、ビエール・トンミー氏が、その『段葛』について解説をした時のことであった。
「アタシなんかと住む世界が違うんだよね」
と云う『みさを』の心が泣いているのをビエール・トンミー氏は悟った。
「そんなことないよ」
と、『みさを』の肩に手を置こうとしたが、
「ダメ!アタシなんか、汚れているから」
と、『みさを』は、ビエール・トンミー氏の手から逃れた。
「どうしたの?」
「ビーちゃん、優しいね。アタシ、夜になると汚れるの。ううん、元々、汚れてる」
『みさを』の云う意味は解らなかった。しかし、抱きしめられずにはいられず、ビエール・トンミー氏は、背後から両手で彼女を包もうとしたが、薄暮の中、『みさを』は亡霊のように、その手をすり抜けた。
「(『みさを』の『みさを』は固かった。でも、『みさを』は、『みさを』ではなかった…)」
もう何年も前のことながら、その時の絶望感が今、ビエール・トンミー氏の胸を襲ってきた。そして、エヴァンジェリスト氏もまた…
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿