2020年10月5日月曜日

治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その136]

 


治療の旅【江ノ島/鎌倉・編】[その135]の続き)



「『ハクシキ』って、ビーちゃんの為にある言葉だね」


『みさを』は、そう云うと、顔を伏せた。エヴァンジェリスト氏と歩く鎌倉の若宮大路の『段葛』で、ビエール・トンミー氏が、その『段葛』について解説をした時のことであった。


「アタシなんかと住む世界が違うんだよね」


と云う『みさを』の心が泣いているのをビエール・トンミー氏は悟った。


「そんなことないよ」


と、『みさを』の肩に手を置こうとしたが、


「ダメ!アタシなんか、汚れているから」


と、『みさを』は、ビエール・トンミー氏の手から逃れた。


「どうしたの?」

「ビーちゃん、優しいね。アタシ、夜になると汚れるの。ううん、元々、汚れてる」


『みさを』の云う意味は解らなかった。しかし、抱きしめられずにはいられず、ビエール・トンミー氏は、背後から両手で彼女を包もうとしたが、薄暮の中、『みさを』は亡霊のように、その手をすり抜けた。






「(『みさを』の『みさを』は固かった。でも、『みさを』は、『みさを』ではなかった…)」


もう何年も前のことながら、その時の絶望感が今、ビエール・トンミー氏の胸を襲ってきた。そして、エヴァンジェリスト氏もまた…



(続く)




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