「出てきた娘がさあ、『みさを』ちゃんだったんだ」
鎌倉の若宮大路の脇の歩道から鎌倉駅方面に向かう横道に入りながら、ビエール・トンミー氏は、ハンカチ大学の同級生の男の言葉を思い出していた。『みさを』と出会ったコンパにも参加していた男のである。
「お前には悪いと思ったけど、こっちもさあ、金払ってんだから、ちゃんと『サービス』はしてもらったぜ」
と、ビエール・トンミー氏に詫びながらも、その男は、『サービス』を思い出したように、舌舐めずりをしてみせた。
「えっ!......」
と、一瞬の叫び声を上げたきり、ビエール・トンミー氏は、ただ口を開けていた。言葉を失うとは、このことであった。
「(………!)」
心の中でも言葉が出てこなかった。
「『みさを』ちゃんも、客が俺だと知って、驚いてたけど、彼女、結構、肝が座ってるな。『お客さん、さあ…』って、ふふ」
その男は、その手の『店』に頻繁に行っていることを公言していた。
「(嘘だ!嘘、嘘、嘘だあ!)」
頭が割れそうになっていた。
(続く)
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