「くどい!君は、本当にくどい!」
鎌倉駅前ロータリーを右に歩道を進みながら、ビエール・トンミー氏は、2-3歩後に続くエヴァンジェリスト氏に向け、言葉を吐き捨てた。
「昔からくどい男だったが、酷すぎる。『みさを』なんて女、知らん、知らん!」
と云いながらも、見たこともない『みさを』の『店』での姿が、夕暮れの闇の中、亡霊のように、眼の前に浮かび、右から左に流れては、また、左斜め上から右斜め下へと流れ戻ることを繰り返していった。
「(んぐっ!)」
『店』で『みさを』の『サービス』を受けた大学の同期の男への憤怒に駆られる一方、ビエール・トンミー氏の股間は、本能に逆らうことができなかった。
「ああ、スターバックスか」
エヴァンジェリスト氏の言葉に、スターバックス鎌倉店まで来たことに気付いた。
「君が友人で良かった。君に感謝する」
スターバックス鎌倉店の席に座ると、エヴァンジェリスト氏は、ビーエル・トンミー氏に頭を下げた。
「え?」
ビエール・トンミー氏は、間抜けな声というよりも音を口から漏らした。その席は、『みさを』と来た時と同じ席であった。またしても亡霊のような『みさを』の姿を眼の前にしていたが、またしても友人の言葉に我に返った。
「1年7ホームで君と同じクラスになっていなかったら、ボクは、ボクの『病気』を独りで抱え込まなければいけなかっただろう」
2人は、広島県立広島皆実高校の1年で同級となって以来、56年間、友人同士でいるのだ(広島皆実高校は、クラスを『ホーム』と呼んだ。今もそうかもしれない)。
「ああ、そうだ。君は『病気』だ。仕事依存症だ。なのに、君は今日、幾度も仕事のことを思い出していただろう」
ビエール・トンミー氏は、この日(2016年10月18日)の江ノ島、鎌倉への『旅」が、友人の仕事依存症の治療の旅であったことを思い出し、『みさを』の亡霊から逃れ、冷静さを取り戻した。
(続く)
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