2020年11月4日水曜日

バスローブの男[その6]

 


「2人でレンタルルームに入るところを見たって人いるみたいよ」


マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミーに、同僚のトシ代が、噂話を囁いていた。ビエール・トンミーと人事総務部の『お局様』を歌舞伎町で見かけたという社員の話である。


「え?レンタルルーム?」


同僚のトシ代の口調には明らかに淫靡のニュアンスがあったが、マダム・トンミーは、『レンタルルーム』なるものを知らなかった。


「2人でお部屋探し?」






「あら、知らないの?ホテル代りよ。レンタルルームによるけど、30分で1,000円とか60分で1,500円とかもあって安いのよ」

「あら、そうなの。トシ代さん、お詳しいのねえ」

「え、まあ、そのねえ、ええ、短時間で済ませるときには、ホテルより手軽でいいみたいよ。ま、聞いた話ではね」

「ん?済ませる?...って、何を?」

「あなたって…本当にお嬢様なのねえ」

「ええ?ええ?」

「男と女が2人だけで同じ部屋に入るのよ。そこですることって、決まってるでしょ」

「ま、ま、まあ!」


マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミーの色白の顔が、みるみる紅潮した。


(続く)





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