2020年11月3日火曜日

バスローブの男[その5]

 


「(……見たわ、あの人のアソコを!んもう!)」


マダム・トンミーは、社内のエレベーター・ホールで、『お局様』が、夫(当時は、結婚前で、まだ夫ではなかったが)と2人で話している時に、手にしていた種類を態と落とし、ブラウスの谷間に夫の視線を誘導して、夫の体に『異変』を生じさせ、逆に自分の視線をその『異変』に向けたところを目撃したのだ。


「(あの時、同僚のトシ代がアタシに声を掛けなかったら、『お局様』、あの人に何をしたことだか!)」


同僚のトシ代が、マダム・トンミーの名前を呼んだので(当時は、まだ結婚していなかったので、旧姓で読んだのだが)、『お局様』は、エレベーター・ホールに他の社員がいると気付いたのだ。


「トンミーさん、今後は気を付けてね」


とキツい口調で、『お局様』は、如何にも若い男性社員に注意をしていただけよ、と見せかけたが、彼女の視線がまだ、夫の『異変』部分に向いていることをマダム・トンミーは、見逃さなかった。しかし…


「んぐっ!」


マダム・トンミーの視線も必然的に夫の『異変』部分に向き、彼女も、自らの体のどこかに『異変』が生じているような感覚に囚われた。


「あの2人、噂があるのよねえ」


エレベーター・ホールから立ち去る『お局様』とビーエル・トンミー氏の背を見ながら、トシ代が呟いた。


「歌舞伎町を2人で歩いてたって…」





(続く)



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