「あのねえ、いい加減にしてよ!」
『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』に、同僚のトシ代は、苛立ちを隠せなくなっていた。2人は、社内のエレベーター・ホールにいた。
「『逆さクラゲ』って温泉マークのことよ。クラゲを逆さにしたみたいでしょ」
苛立ちながらも、子どもに教えるように説明をする。
「あら、確かにそうだわ。トシ代さんって、面白い見方なさるのねえ」
「アタシが、『逆さクラゲ』って云ってるんじゃないわ。温泉マークのことを『逆さクラゲ』っていうのは常識よ」
「あら、アタシって無知ねえ。ごめんなさい。『逆さクラゲ』って、温泉で、スーパー銭湯じゃあないのね」
「だからあ、スーパー銭湯じゃあないけど、温泉でもないの!」
「え?だって、『逆さクラゲ』って、温泉のマークなんでしょ?」
「いいこと、『逆さクラゲ』って、『連れ込み宿』のことよ!」
「『連れ込み宿』?え、旅館なの?何を連れ込むの?犬でも連れ込むの?まさか何かの人質を!?そんな酷い旅館なの?」
「あなたって、もう、天然記念物ね。要するに、ラブホテルよ!」
「ええ!ええ、ええ、ええー!でも、どうして、『逆さクラゲ』が、ラブホテルなの?」
「ラブホテルは知ってるのね」
トシ代は、ようやくホッとした表情を見せた。
(続く)
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