2022年9月8日木曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その259]

 


「トンミーくん、チーズ食べるん?」


クラスの女子生徒の一人、少女『トシエ』が、ビエール少年に訊いた。1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の教室、放課後であった。


「え?」

「チーズ、食べよってんじゃないん?」

「食べなくはないけど…」


ビエール少年は、少女『トシエ』の意を測りかね、恐る恐るといった感じで答えた。


「やっぱりそうなんじゃね」


少女『トシエ』は、得心の笑顔を見せた。その日の朝、登校して間も無く、隣席ビエール少年にさりげない風を装って近付いた時、臭ったのだ。


「(臭い!)」


と鼻をつまみながらも、思った。


「(臭いけど、ああ、なんか堪らん!...あ、これ、あの臭いじゃないん?)」




しばらく前に東京の親戚が送ってきたものの臭いに似ていたのだ。チーズであった。


「チーズいうたら、外人が食べよるんじゃろ?」


別の女子生徒が、他の女子生徒たちに訊いた。その放課後、数人の女子生徒が、自席に座るビエール少年を囲んでいたのであった。ビエール少年は、少女『トシエ』に英語を教えて欲しいと迫られ、承諾するもしないもなく、少女『トシエ』と他の女子生徒たちに、放課後、英語を教えることになってしまっていたのだ。


しかしー、


「ええー!トンミーくん、チーズ食べとるん?」


女子生徒たちは、英語をそっちのけで、チーズについて、ビエール少年に質問を被せていっていた。



(続く)




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