「トンミーくん、チーズ食べるん?」
クラスの女子生徒の一人、少女『トシエ』が、ビエール少年に訊いた。1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の教室、放課後であった。
「え?」
「チーズ、食べよってんじゃないん?」
「食べなくはないけど…」
ビエール少年は、少女『トシエ』の意を測りかね、恐る恐るといった感じで答えた。
「やっぱりそうなんじゃね」
少女『トシエ』は、得心の笑顔を見せた。その日の朝、登校して間も無く、隣席ビエール少年にさりげない風を装って近付いた時、臭ったのだ。
「(臭い!)」
と鼻をつまみながらも、思った。
「(臭いけど、ああ、なんか堪らん!...あ、これ、あの臭いじゃないん?)」
しばらく前に東京の親戚が送ってきたものの臭いに似ていたのだ。チーズであった。
「チーズいうたら、外人が食べよるんじゃろ?」
別の女子生徒が、他の女子生徒たちに訊いた。その放課後、数人の女子生徒が、自席に座るビエール少年を囲んでいたのであった。ビエール少年は、少女『トシエ』に英語を教えて欲しいと迫られ、承諾するもしないもなく、少女『トシエ』と他の女子生徒たちに、放課後、英語を教えることになってしまっていたのだ。
しかしー、
「ええー!トンミーくん、チーズ食べとるん?」
女子生徒たちは、英語をそっちのけで、チーズについて、ビエール少年に質問を被せていっていた。
(続く)
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