「ええ!有名な人で、顔にカビが生えとる人おる?」
と、女子生徒の一人が、目を大きく開いたままにして、そう云った。同級生の女子生徒が、『須藤さん』のおじちゃんと同じに顔にカビが生えている有名人がいると云ったからである。
1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の教室、放課後、英語を教えてもらおうと、数人の女子生徒が、ビエール少年をとり囲んでいた。
「おるんよ。野球やる人でおるじゃない?」
「野球やる人?」
「ウチ、野球よう知らんのんじゃけど、『ナガシマ』いうん?」
「『ナガシマ』?あ、『巨人』の?」
「おお、そうよね。『巨人』の『ナガシマ』いうんは、顔に、青いような黒いようなカビが生えとるじゃろ?」
「あ、『長島』は、顔にカビが生えているんじゃなくって…」
と、ビエール少年が、女子生徒たちの会話に言葉を挟もうとしたが…
「そういうたら、『ナガシマ』いうたら、口の周り、なんか青黒いわあ」
「ひゃ~あ!アレ、カビなん?」
「『巨人』いうたら悪もんなんじゃろ?」
「ほうよお。お父ちゃんが云うとったよ。『巨人』は、『カープ』に意地悪するんじゃと」
「知っとるよ。ウチのお父ちゃんも云うとった。『巨人』いうたら、審判を買収しとるんじゃと」
「買収いうたら、お金渡して、いうこときかすんじゃろ。『巨人』は、汚いねえ。ウチ、好かん!」
「ほうじゃ。審判いうたら、『ナガシマ』が打つ時にゃあ、『ストライク』でも『ボール』にするんじゃと」
「『ナガシマ』は、悪もんじゃけえ、顔にカビが生えとるんじゃね」
当時(1967年である)、地元球団である『広島カープ』(その年の12月に『広島東洋カープ』に改称)は、万年Bクラスであり(その年に根本睦夫監督の許、初めてAクラス=3位となるのであったが)、広島人にとって『巨人』は悪の権化であり、『長嶋茂雄』も悪役であったのである。
(続く)
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