「細菌は、確かに病気を引き起こすものもあるけど」
と、ビエール少年は、そもそもの問題は『カビ』なのに、と思いつつも、『細菌』について説明し始めた。
1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の教室、放課後、英語を教えてもらおうと、数人の女子生徒が、ビエール少年をとり囲んでいた。
「で、それは、病原菌っていうんだけど、病原菌は細菌のごく一部に過ぎなくって、最近というのは、目に見えない小さな単細胞生物で…」
「ほよ!?『単細胞』?」
「ウチ、知っとるよ」
「なんねえ?」
「お父ちゃんが、お兄ちゃんにこの前、云うとったんよ、『お前は、単細胞じゃけえのお』って」
「お兄さん、細菌なん?」
「いつも意地悪するけえ、ウチにとっちゃあ、細菌みたいなもんよね」
「いや、お兄さんは勿論、細菌じゃなくって、『単細胞だから』というのは、考え方とか性格が単純っていう意味で…」
と、ビエール少年が、『単細胞だから』の解説をすることに疑問を持ちながらも、そう云いかけた時、
「ウチも『単細胞』じゃけえ、直ぐ好きになるんよ。んふっ」
と、少女『トシエ』が身を捩った。
「え?...??...で、それに細菌は全部が病気を引き起こすものじゃなくって、例えば、キノコだって、『菌類』なんだけど、毒キノコもあるけど、食べられるキノコも沢山あるんで…」
と、ビエール少年は、少女『トシエ』に対して、どこか疑問と、なにがしかの怖れを感じながらも、説明を続けた。
(続く)
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