「うーん、そうだねえ、あれがいい匂いなのかどうかは分らないけど」
と、ビエール少年は、自らの鼻腔を広げ、松茸の匂いを思い出そうとした。
1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の教室、放課後、英語を教えてもらおうと、数人の女子生徒が、ビエール少年をとり囲んでいた。
「でも、嫌な臭いではないね。そう、松茸もキノコで、だから『菌類』だけど、毒はないし、匂いだって多分、いいみたいだし、だから、『菌類』の一つのカビだって同じなんだ」
「ええ匂いのカビもあるいうことなんじゃね?」
「カビだって、同じというのは、正確には、毒のないカビもあるってことでね、あのね、カビ自体には臭いはないらしいんだ」
「ほいじゃけど、この間、お母ちゃんが、お兄ちゃんの柔道着、カビ臭うてたまらん、云うとったよ」
「ああ、ウチのお兄ちゃんの柔道着も凄い臭いんよ。お兄ちゃん、柔道着だけじゃのうて、学生服も臭いし、口も臭いけえ」
「カビ臭い、っていうのは、カビが作る物質とか、カビが餌にする物質なんかが、カビによって臭い臭いを出すようになるかららしいんだよ」
「じゃったら、チーズが臭いんは、カビの臭いじゃないん?」
「うん、カビは脂肪を分解して脂肪酸なんかを作るからみたいだよ」
「あれええ、トンミーくんいうたら、ウチの隣のおじちゃんのこと知っとるん?」
「はああ?」
(続く)
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