「『須藤さん』のおじさんも『巨人』なん?」
と、女子生徒の一人が、『須藤さん』のおじちゃんは臭い、と云った同級生の女子生徒に、そう云った。『巨人』という言葉を口にするのも嫌、と言った表情であった。
1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の教室、放課後、英語を教えてもらおうと、数人の女子生徒が、ビエール少年をとり囲んでいた。
「え?」
「ウチ、テレビで見たことあるような気がするんよ。『巨人』に『須藤』いう選手がおったみたいじゃけえ」
確かに、当時(1967年である)、読売ジャイアンツ、つまり、『巨人』には、『須藤豊』という選手がいた。後に、大洋ホエールズの監督をしたり、『巨人』のコーチをすることにもなり人物である。
「『須藤さん』のおじさんは、ウチの隣に住んでっとじゃし、それに、ええ人じゃけえ、『巨人』じゃないよねえ。臭いんは、凄い臭いんじゃけど」
「顔にカビが生えとってじゃけえね」
「あのお…それは、カビじゃなくって、髭じゃないかなあ」
ビエール少年が、自らの顎を撫でるちょっと大人びた仕草をしながら、そう云った。
「え?髭?」
「そう、『長島』もヒゲが濃いから、髭を剃った跡が青く見えるんで…」
「なんねえ、『須藤さん』のおじさんあれは、カビじゃのうて、髭なん?」
「それに、『須藤さん』ではなくって、カビが臭い、っていうのは、さっき云ったように、カビ自体が臭いのじゃなくって、カビが脂肪を分解して脂肪酸なんかを作るからで…」
と、ビエール少年は、ようやく話を完全にではないが、少し元に戻した。
「ほうよねえ。アンタら、いい加減にしんさいや。『バド』は、『須藤さん』じゃのうて、『脂肪酸』云うちゃったんよ!」
あくまでビエール少年の代弁者である少女『トシエ』は、同級生の女子生徒たちを叱った。
「臭いんは、『須藤さん』じゃのうて、『脂肪酸』なんよ、『脂肪』よおね」
「ふん!なんねえ…」
『須藤さん』のおじさんをお隣に持つ女子生徒は、分り易く、不満を頬を膨らませることで表現した。
(続く)
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