「『クッキー』?なんねえ、それえ」
女子生徒たちは、ビエール少年の頭上を縦横に言葉を飛ばしあっていた。
1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の教室、放課後、英語を教えてもらおうと、数人の女子生徒が、ビエール少年をとり囲んでいた。
「『クッキー』、食べたことないん?」
「食べるもんなん?」
「ウチ、翠町の従姉妹のとこで『クッキー』食べたことあるんよ。叔母ちゃんが作ってじゃけえ」
ビエール少年は、その時、その女子生徒の従姉妹が、『クッキー』子さんであり、『クッキー』子さんの母親が作った『クッキー』を、3年後には広島皆実高校で同級生となり生涯の友人となる男も食べていることをまだ知るはずもなかった。
(参照:ハブテン少年[その34])
「アンタの叔母さん、外人さんなんね?」
「日本人じゃけど、元々、東京の人じゃけえ、ハイカラなんよ。『クッキー』いうんは、『ビスケット』みたいなんじゃけど、上にゃあねえ、宝石みたいな赤や黄色んが乗っとるんよ」
「ええ、宝石ねえ!?『ビスケット』の上に宝石が乗っとるん!?なんか、宝石、硬そうじゃけど、ウチ、食べてみたいねえ」
「ウチは、『ビスケット』は食べたことあるけど、『クッキー』いうんは食べたことないねえ。トンミーくんは、『クッキー』食べたことあるんじゃろ?」
少女『トシエ』が、ビエール少年に訊いた。話題をビエール少年に戻したかったんのだ。
「食べたことあるよ。でも、『クッキー』って基本的には『ビスケット』と同じで…」
と、ビエール少年は、『クッキー』と『ビスケット』との違いを説明しようとしたが…
「やっぱり、『ホス』なんとかいうんは『クッキー』なんじゃね。トンミーくん、『アーメン』の時に『クッキー』食べたんじゃろ?」
「ウチ、『クッキー』食べさせてもらえるんなら、『アーメン』しょうかいねえ」
女子生徒たちは、まだ口々に誤解を放ち始めた。
「いや、『ホスチア』は『クッキー』じゃなくてパンだし、ボクは、カトリックじゃないから『整体拝受』で『ホスチア』を食べたことはないし、『アーメン』だってしたことなくって、ボクが云ったのは、『アーメン』じゃなく『エメンタル』なんだ。『トムとジェリー』のネズミのジェリーが食べてるのは、『エメンタル・チーズ』なんだ。でも、ネズミは、本当はチーズが好きってことはないみたいで、『エメンタル・チーズ』に穴が空いているのも、ジェリーが食べたからじゃなくって、元々空いてるものなんだ」
ビエール少年は、ここぞ、と女子生徒たちの誤解を解くべく、息も継がず、一気にまくし立てた。
(続く)
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