「図書館の司書の一人が云うにはだなあ」
と、エヴァンジェリスト氏は、ビエール・トンミー氏を取材対象とする特派員宛のiMessageで、ビエール・トンミー氏の図書館での所業を明かそうとしていた。
「アイツは、ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』で、フランス国旗を掲げて民衆を導くマリアンヌのはだけた胸を見て、興奮していたらしいんだ」
「それは、あくまで想像に過ぎないと思います!」
「では、アイツが、その図書館で『ヘンタイ美術館』を借りたのも想像の産物だというのか?」
「『ヘンタイ美術館』の何がいけないのですか!?」
「司書たちは、『ヘンタイ美術館』を借りたアイツのことを『変態』と噂しているぞ」
(参照:司書は見た!(後編))
「『ヘンタイ美術館』って、そんな本ではありません。美術の素人でも美術の世界に入って行き易いように、普通とは違った切り口から美術を開設解説した本なんです!アーティストのちょっと常人とは違う姿から美術を解説した本なんです!立派な美術の入門書です!」
「君は、読んだことがあるのか?」
「ええ、あの方が、座右の書のようによくお持ちでしたので、私も買って読んでみました。あの方は、間違うことなき知性の持ち主でいらっしゃいます。だから、『mRNAワクチンの衝撃』もお読みになろうと、図書館でお借りになられたのです」
「ああ、そういうことか。『フットトランクオープナー』に感心した若い女性は、アイツのベンツ『Eクラス』のダッシュボードに、その『mRNAワクチンの衝撃』という本が置いてあるのを見て、アイツのことを金持ちの医者とでも勘違いして、アイツを『ナンパ』しようとした、と君は思っているんだな」
「ちょっと間違えていらっしゃいますが、ほぼそんなところです」
「ちょっと間違えている?」
「ええ、『mRNAワクチンの衝撃』は、医学書ではないんです」
「新型コロナワクチンに使われるメッセンジャーRNAの解説本ではないのか?」
「あの若い女性もそう思ったとは思います。でも、あの本は実際には、新型コロナワクチン開発のドラマなんです!新型コロナワクチンをファイザーと共同開発したドイツのベンチャー企業のビオンテック社の話なんです。何が凄いかというと、中国のコロナのニュースがヨーロッパに届いた金曜日の週末にコロナのことを知って、土日に会社の全リソース(ベンチャーといっても何億ユーロの資産と従業員数千人の企業です)をワクチン開発に振り向ける決定をして(その時点でヨーロッパの感染者は一人なんですよ!)、翌週の終わりにはドイツの規制当局、提携企業のファイザーとの協業、複雑な開発過程、試験課程を決めて開発に邁進したんです。僅か一週間で、普通は何ヶ月も何年もかかる準備を終えて開発を始めたんですよ。これが日本の会社でしたら、会議、会議、と開発決定に膨大な時間がかかるでしょうし、厚生労働省の協力を得るためにもまた何ヶ月もかかるでしょう。これが僅か一週間で完了したのです。日本の企業はコレだから、海外の最先端の企業に敵わないのです。だから私たちはファイザーやモデルナのワクチンしか使えないのです」
「ほほー、そうなんだ。ワシもサラリーマン時代、社内会議が大嫌いだった。それにしても君は、その本の内容に詳しいな。ひょっとして、君はその『mRNAワクチンの衝撃』という本を買ったのか?」
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿