「ウチの隣のおじちゃん、凄う臭いんよ」
と、聞き間違いの得意な女子生徒が、自らの鼻を摘み、顔を顰めながら、そう云った。
1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の教室、放課後、英語を教えてもらおうと、数人の女子生徒が、ビエール少年をとり囲んでいた。
「え?」
「トンミーくんも、やっぱりあのおじちゃん、臭い思うたんじゃろ?」
「いや、そのおじさん、知らないけど…」
「さっき、『須藤さん』云うたじゃないねえ」
「へ?『須藤さん』?」
「ほうよねえ。やっぱり、隣の『須藤さん』のおじちゃんのこと、知っとんたんじゃね」
「いや、ボクは『須藤さん』とは…」
「『須藤さん』のおじちゃんは、体にカビが生えちゃったけえ、臭いんかねえ?」
「ええー!体にカビが生えとるん?!」
「ほうなんよ。顔なんよ、カビが生えとるんは」
「ひゃあ~!顔に!?嫌じゃあ!」
女子生徒たちは、興奮していた。
「なんかねえ、口の周りとか顎とかほっぺたなんかに生えとるんよ」
「自分で臭うないんかねえ?」
「臭い思うんよ。鼻の下にも生えとるけえね」
「ウチ、そうような人見たことないけえ」
「青いいうか黒いいうか、ほら、有名な人でもおるじゃないねえ」
(続く)
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