「へええ、外人さんも煎餅食べるん?」
と、女子生徒の一人が、誤解を解こうというビエール少年の努力も虚しく、更に誤解を拡げていった。
1967年4月、広島市立牛田中学校1年X組の教室、放課後、英語を教えてもらおうと、数人の女子生徒が、ビエール少年をとり囲んでいた。
「いや、『ホスチア』は、煎餅みたいな感じというだけで…」
途方にくれたビエール少年の声は、尻すぼみになっていった。
「ウチは、煎餅よりクラッカーの方がええ」
「ウチもよ。ウチがこんなに綺麗なんも『あたり前田のクラッカー』よお!」
「ウチ、『時次郎』は馬面じゃけえ、スカン」
「『珍念』は、かわいいよねえ」
『あたり前田のクラッカー』という流行語を生み出した公開テレビ・コメディ『てなもんや三度笠』が、放映され、人気を博していた時代であった。
「いや、『ホスチア』は、煎餅でもないし、クラッカーでもないし」
と、ビエール少年が、口先に言葉を微かに漏らすと、
「あんたら、『バド』の云うこと、ちゃんと聞きんさいや。『ホス』なんとかいうんは、煎餅でもクラッカーでもない云うちゃってじゃないねえ」
またもや、少女『トシエ』が、ビエール少年の代理人的発言をした。
「ほうよねえ、『あたり前田のクラッカー』は、『時次郎』が持っとるんじゃけえ、江戸時代のもんじゃろ。外人さんが食べるはずないねえ」
「じゃったら、『クッキー』なんじゃないん、『ホス』なんとかいうんは」
(続く)
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